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駐在員・出張者がパスポートを紛失したら|緊急旅券とESTAの制約

はじめに

米国出張中、あるいは駐在中に、パスポートを紛失した、盗難に遭った——決して珍しい事態ではありません。

このとき、多くの方が最初に考えるのは「どうやって日本に帰るか」です。それも重要ですが、企業のご担当者に知っておいていただきたいのは、その先で起きることです。

パスポートを紛失すると、その中に貼られていた米国ビザも失われます。そして緊急時に在外公館が発給する旅券には、ICチップが搭載されていません。この2つが組み合わさると、「日本には帰れたが、米国に戻れない」という状況が生じ得ます。

この記事では、①紛失時に何が起きるか、②公式に案内されている手続き、③ビザを失うことの意味、④緊急旅券とESTAの制約、⑤会社としての備え、の順に整理します。

何が起きるか:3つの局面に分けて考える

パスポートの紛失は、次の3つの局面で異なる影響を及ぼします。この区別が、対応を考える出発点になります。

局面

影響

米国での滞在

継続できます。滞在の根拠はI-94(入国記録)にあるためです

米国からの出国

有効な旅券が必要です。旅券がなければ出国できません

米国への再入国

ビザが失われているため、新たに取得しない限りできません

米国務省の案内は、この点を明確にしています。米国に一時的に滞在している外国人が米国ビザを紛失した場合、入国スタンプまたは紙のForm I-94に示された授権された滞在期間中は、米国に滞在し続けることができます。 ただし、米国から出国し、他国へ入国するためには、有効な旅券が必要です。

つまり、すぐに帰国を迫られるわけではありません。慌てて動く必要はない一方、再入国の準備には相応の時間がかかります。

公式に案内されている手続き

米国務省は、米国内で旅券・ビザ・I-94を紛失した場合の手順として、次を案内しています。

警察への届出

地元の警察署へ行き、文書の紛失または盗難を届け出ます。 可能であれば、原本のコピーを提出します。事案の詳細を記載した警察報告書(police report)が発行されます。自分の記録用に、この報告書のコピーをもう1部取っておくよう案内されています。

この警察報告書は、後のビザ再取得の際に必要になります。

自国(日本)の在外公館への届出

旅券の再発給については、自国の大使館・領事館に連絡するよう案内されています。日本の場合、在外公館で紛焼失届出を行い、旅券の再発給または緊急時の渡航文書の発給を申請します。

米国側へのビザ紛失の届出

ビザの紛失・盗難は、そのビザを発給した米国外の米国大使館・総領事館の領事部へ、電子メールで届け出るよう案内されています。届出には、次の情報を含めます。

  • 氏名(フルネーム)
  • 生年月日
  • 出生地
  • 米国内の住所
  • メールアドレス(ある場合)
  • 紛失か盗難かの明示
  • 旅券またはビザのコピーがある場合は、スキャンして添付
  • コピーがない場合は、分かる範囲でビザの種類と、紛失したビザが貼られていた旅券番号

    なお、いったん紛失・盗難を届け出た後にビザが見つかった場合でも、そのビザは将来の渡米には無効になります。 見つかったから使える、ということにはなりません。

    I-94の再発給(紙のI-94を交付されていた場合)

    紙のForm I-94を交付されていて、それを紛失した場合は、直ちに再発給を受けるよう案内されています。I-94の再発給は米国国土安全保障省(DHS)の所管で、Form I-102による手続きになります。

    核心①:ビザは米国内では再取得できない

    ここが、この記事でもっとも重要な点です。米国務省は次のように案内しています。

    紛失または盗難に遭った米国ビザは、米国内で再発給を受けることはできません。ビザの再取得のためには、米国外の米国大使館・総領事館へ本人が出頭して申請しなければなりません。

    申請の際には、旅券とビザの紛失の経緯を記載した書面を提出する必要があり、警察報告書のコピーを含めることとされています。

    これが意味するのは、次のことです。

    • 駐在員は、米国内にいる限り滞在を続けられます(I-94の期限まで)
    • しかし、いったん米国を出れば、新しいビザを取得するまで戻れません
    • ビザの取得には、面接の予約と審査の期間が必要です

      日本への一時帰国を予定していた場合、その計画は根本的に見直しが必要になります。 帰国してから米国へ戻るまでの期間が、当初の予定より大幅に長くなる可能性があるためです。

      核心②:緊急旅券・帰国のための渡航書はICチップ非搭載

      日本側の手続きにも、見落とされやすい制約があります。

      2025年3月24日以降、日本の旅券は国立印刷局で集中的に作成される方式に変わり、在外公館での申請から交付まで、2週間〜1か月程度を要するようになりました。

      そこで、紛失・盗難等により集中作成される旅券を待つことができない事情がある方に対しては、在外公館において「緊急旅券」(日本に帰国する方に対しては「帰国のための渡航書」)が発給されます。

      ただし、在外公館の案内は次の点を明記しています。

      これらにはICチップが搭載されていないことから、渡航先国によっては査証(ビザ)の取得を求められる場合があります。

      そして、米国について具体例が示されています。

      米国にICチップを搭載しない渡航文書(非IC旅券)で渡航しようとする場合、査証免除プログラムの適用外となるため、あらかじめ米国査証の取得が必要となります。

      つまり、緊急旅券や帰国のための渡航書では、ESTAによる渡米ができません。 出張者にとっては、これが次回の渡米に直接影響します。

      立場別の整理

      出張者(ESTA・B-1で渡航していた場合)

      帰国:帰国のための渡航書により、日本へ帰ることができます(片道有効の渡航文書です)。

      次回の渡米:ここが問題です。緊急旅券のまま渡米しようとすると、非IC旅券であるためESTAが利用できず、米国ビザの取得が必要になります。

      したがって実務上は、帰国後に改めてIC旅券を取得するのが基本的な流れになります。ただし、国内での申請でも交付まで2週間程度を要します。次の出張が近い場合、日程の調整が必要です。

      駐在員(E・Lビザで滞在していた場合)

      滞在:I-94の期限まで、米国に滞在し続けられます。

      一時帰国:出国自体は、緊急旅券または新しい旅券があれば可能です。しかし、米国へ戻るには新しいビザが必要です。

      再入国:日本で改めてビザを申請することになります。面接の予約、審査の期間が必要であり、その間は米国へ戻れません。米国に残る家族、業務の引継ぎ、住居や生活の問題まで含めて、影響が広範に及びます。

      つまり駐在員の場合、「日本へ一時帰国すべきかどうか」自体が判断事項になります。 緊急の用務がない限り、米国内で旅券の再発給を受け、ビザ再取得の準備を整えてから動く方が、結果的に不在期間を短くできる場合があります。

      会社としての備え

      事前のコピー保管

      米国務省は、米国到着後できるだけ早く、旅券の身分事項ページ、米国ビザ、入国スタンプまたは紙のForm I-94のコピーを取っておくよう推奨しています。

      会社としても、次の情報を人事・総務側で保管しておくことをおすすめします。

      • 旅券の身分事項ページの写し
      • 米国ビザの写し(種類、発給日、有効期限、発給した公館)
      • I-94の記録(滞在期限)
      • 旅券番号

        紛失時の届出には、これらの情報が必要になります。 本人の手元にしかない状態だと、紛失と同時に情報も失われます。

        あわせて、旧旅券を破棄せずに保管しておくことをおすすめします。米国務省の案内によれば、旅券が失効しても、その中の米国ビザが有効であれば、旧旅券と新しい旅券の2冊を携行して渡米できるとされています。入国審査官が旧旅券のビザを確認し、入国を認める場合には、新しい旅券に「VIOPP(visa in other passport)」という注記付きで入国スタンプが押されます。両方の旅券が同じ国の発給であることが条件です。

        なお、同じ案内では、旧旅券からビザを剥がして新しい旅券に貼り替えてはならず、そうした場合ビザは無効になると明記されています。この扱いは紛失の場面では使えませんが(旧旅券自体が失われているため)、旅券の切替時に有効なビザを無駄にしないための実務として、あわせて押さえておく価値があります。

        緊急時の連絡体制

        • 誰が、いつまでに、社内の誰へ報告するか
        • 現地の在外公館の連絡先を、出張者・駐在員が把握しているか
        • 業務の代替体制をどう組むか

        出張・帰国計画への織り込み

        • 出張者に紛失が起きた場合、次回渡米の日程が後ろにずれる可能性
        • 駐在員に紛失が起きた場合、一時帰国の計画そのものを見直す必要
        • 面接の予約状況によって、再入国までの期間が変動すること

        よくある質問

        Q1. パスポートを紛失した駐在員は、すぐに帰国しなければなりませんか。

        いいえ。米国務省の案内では、ビザを紛失しても、I-94に示された授権された滞在期間中は米国に滞在し続けられるとされています。ただし、出国には有効な旅券が必要であり、再入国にはビザの再取得が必要です。

        Q2. 後からパスポートが見つかりました。中のビザは使えますか。

        使えません。いったん紛失・盗難を届け出た後にビザが見つかっても、そのビザは将来の渡米には無効になるとされています。改めてビザを申請する必要があります。

        Q3. 米国内でビザを取り直せますか。

        できません。紛失・盗難に遭った米国ビザは米国内では再発給されず、米国外の米国大使館・総領事館へ本人が出頭して申請する必要があるとされています。

        Q4. 緊急旅券で米国へ戻れますか。

        緊急旅券・帰国のための渡航書にはICチップが搭載されておらず、非IC旅券での渡米は査証免除プログラム(ESTA)の適用外とされています。加えて、駐在員の場合はビザ自体も失われています。

        Q5. 会社として、まず何をすべきですか。

        本人の安全確認の後、警察への届出、日本の在外公館への連絡、米国側へのビザ紛失の届出が必要になります。事前に旅券・ビザ・I-94のコピーを保管していれば、これらの手続きが円滑に進みます。

        当事務所でサポートできること

        旅券の再発給・緊急旅券の発給は在外公館の所管であり、警察への届出も本人が行うものです。 これらの手続きを当事務所が代わって行うことはできません。

        当事務所(行政書士法人タッチ)がサポートできるのは、ビザの再取得に向けた準備です。具体的には、再申請に必要となる資料の整理、日本側で必要となる資料の収集・整理・英訳、DS-160等の作成サポート、面接に向けた準備、そして再入国までのスケジュールの設計です。あわせて、渡航管理の仕組みづくり(コピーの保管、緊急時の連絡体制)についてもご相談いただけます。

        紛失の経緯の説明や、個別の事情に応じた対応について米国移民法上の専門的な判断が必要な場合は、米国提携弁護士(Valvo & Associates)と連携して対応します。

        まとめ

        パスポートの紛失で本当に問題になるのは、「帰国できるか」ではなく「戻れるか」です。

        米国での滞在自体は、I-94の期限まで継続できます。しかし旅券に貼られていたビザは失われ、米国内で再取得することはできません。再取得は米国外の大使館・総領事館で本人が申請する必要があり、面接の予約と審査の期間を要します。

        加えて、日本側で発給される緊急旅券・帰国のための渡航書にはICチップが搭載されていないため、ESTAによる渡米ができません。出張者にとっては、次回渡米の日程に直接影響します。

        駐在員の場合、「日本へ一時帰国すべきか」自体が判断事項になります。 緊急の用務がなければ、米国内で旅券の再発給を受け、ビザ再取得の準備を整えてから動く方が、不在期間を短くできる場合があります。

        会社としての備えは、難しいものではありません。旅券の身分事項ページ、ビザ、I-94のコピーを、本人と会社の双方で保管しておくこと。 米国務省も、到着後できるだけ早くコピーを取っておくよう推奨しています。あわせて、有効なビザが残っている旧旅券は破棄しないこと(新旧2冊の携行により使える扱いがあります)。この一手間が、実際に紛失が起きたときの対応速度を大きく変えます。

        参考資料・公式リンク

        免責

        本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別案件に対する法的助言ではなく、個別案件の結果を保証するものでもありません。旅券の再発給、緊急旅券・帰国のための渡航書の発給は在外公館の所管であり、必要書類・所要期間は申請先および状況によって異なります。ビザの発給可否は在日米国大使館・総領事館による個別審査であり、入国の可否や滞在可能期間は入国時に米国当局(CBP)が判断します。制度・運用は変更される可能性があるため、実際の対応にあたっては必ず最新の公式情報をご確認いただき、在外公館の指示に従ってください。(2026年8月確認時点)

        この記事の監修者
        行政書士法人タッチ 代表行政書士 湯田 一輝
        2018年8月 ビザ申請・帰化申請専門の「ゆだ行政書士事務所」設立
        2022年4月 個人事務所を行政書士法人化「行政書士法人タッチ」
        専門分野 外国人在留資格、帰化申請
        外国人ビザ関係を専門とし、年間1000件以上の相談に対応
        セミナー実績 国際行政書士養成講座、公益財団法人戸田市国際交流会、埼玉県日本語ネットワーク、行政書士TOP10%クラブ、行政書士向け就労ビザ講習会など多数
        運営サイト 行政書士法人タッチ
        国際結婚&配偶者ビザサポートセンター
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