
外国人材の受入れが拡大する中、企業のコンプライアンスリスクとして見過ごせない法改正が迫っています。それが、2026年(令和8年)1月施行予定の「行政書士法改正」です。
これまで、外国人雇用の実務現場では、登録支援機関(人材会社等)が「支援委託費」などの名目で、実質的にビザ申請書類の作成を代行するケースが散見されました。
しかし、今回の改正により第19条(業務の制限)に「いかなる名目によるかを問わず」という文言が追加され、この商慣習が明確に「違法」となることが決定づけられました。
本記事では、国際業務を専門とする行政書士法人の視点から、この法改正が企業の実務に与える影響と、コンプライアンスを守るための登録支援機関との付き合い方について、客観的に解説します。
目次
1. 2026年施行・行政書士法改正の全貌
まずは、今回の議論の核心である「第19条」の改正内容を確認します。これまでは解釈に委ねられていた部分が、条文として明確に規定されることになりました。
1-1. 改正条文の比較
これまでの行政書士法第19条と、2026年施行予定の条文を比較します。
第十九条 行政書士又は行政書士法人でない者は、業として第一条の二に規定する業務(官公署提出書類の作成等)を行ってはならない。(以下略)
第十九条 行政書士又は行政書士法人でない者は、他人の依頼を受け【いかなる名目によるかを問わず報酬を得て】、業として第一条の三に規定する業務を行うことができない。(以下略)
1-2. 追加された文言の法的意義
もっとも重要な変更点は、「いかなる名目によるかを問わず報酬を得て」という文言の追加です。
これは、無資格者が書類作成業務を行う際、その対価をどのような名称(名目)で請求したとしても、実質的に報酬を得ていれば処罰対象になることを意味します。
これまでは、違反要件である「報酬を得て」という部分に対し、以下のような抜け穴的な解釈(抗弁)が横行していました。
• 「ビザ申請代行費としては1円も貰っていない」
• 「貰っているのは毎月の『支援委託費』や『コンサルティング料』であり、書類作成は無償のサービス(附帯業務)で行っている」
しかし、改正法の施行後はこの理屈が通用しなくなります。
「コンサル料」であれ「事務手数料」であれ、あるいは「月額顧問料」であれ、その中に書類作成の労務対価が含まれていると判断されれば、即座に法違反となります。
2. 登録支援機関の「パッケージサービス」が孕む違法性
この法改正が最も大きな影響を与えるのが、特定技能制度における「登録支援機関」のサービスモデルです。特に、行政書士資格を持たない事業者が提供する「全部込みプラン」は、根本的な見直しを迫られます。
2-1. よくある「支援費込み」モデルの崩壊
現在、多くの登録支援機関が、企業に対して以下のような提案を行っています。
• 「月額2万円の支援委託費をいただければ、更新申請や変更申請の書類作成は無料で行います」
• 「初期費用と月額費用の中に、すべての事務手続き代行が含まれています」
企業側からすればコストメリットがあるように見えますが、改正法の下では、これが「名目を変えた報酬受領」とみなされます。
「支援」と「書類作成」は本来別の業務です。継続的な取引において、営利企業が重い責任を伴う書類作成を「完全な無償(ボランティア)」で行うことは経済合理性がなく、実質的には「月額費用の中に書類作成報酬が潜り込んでいる(名目を変えて報酬を得ている)」と判断される蓋然性が極めて高いためです。
2-2. 「事務手数料」「着手金」への言い換えも不可
中には、「申請代行費」という項目を使わず、「入管取次事務手数料」や「書類チェック料」といった名目で請求するケースもあります。
しかし、改正法の「いかなる名目によるかを問わず」という強力な規定により、これらの言い換えも無効化されます。
実態として、行政書士資格のない者が書類を作成・完成させ、それに対して金銭の授受があれば、名目が何であれアウトです。
2-3. ただし書き(例外規定)の適用範囲について
改正条文には、「定型的かつ容易に行えるものとして総務省令で定める手続...の場合はこの限りでない」というただし書きがあります。 これを見て「ビザ申請も例外になるのでは?」と考える事業者もいるかもしれません。
しかし、一般的に在留資格(ビザ)の申請は、個々の外国人の経歴や企業の状況に合わせて立証資料を揃える必要があり、法務大臣の広範な裁量が働く「非定型的かつ高度な判断を要する手続き」です。
したがって、特定技能などの複雑な申請業務がこの例外規定(定型的かつ容易)に含まれる可能性は極めて低く、原則通り規制対象となると考えるのが法務リスク管理の基本です。
3. なぜ、ここまで厳格化されるのか?背景にあるリスク
国がここまで踏み込んで行政書士法を改正する背景には、外国人雇用手続きにおける「質の低下」と「責任の所在の不明確さ」があります。
3-1. 不法就労助長の温床
無資格の登録支援機関やブローカーが書類作成を行う際、どうしても「許可を取ること」が目的化しがちです。その結果、経歴の改ざんや、実態と異なる職務内容の記載など、虚偽申請が行われるリスクが高まります。
行政書士であれば、法律に基づく職責として不正な依頼は断りますが、無資格の営利業者は「お客様(企業)の要望」として違法行為に手を染めやすい構造があります。
3-2. 責任の所在が曖昧
もし申請内容に虚偽があり、外国人の在留資格が取り消された場合、誰が責任を取るのでしょうか。
無資格の登録支援機関が作成した場合、「あくまでサポートしただけで、申請したのは本人(または企業)ですよね?」と責任を逃れることができます。
法改正は、こうした無責任な関与を排除し、「書類を作るなら、国家資格者が責任を持って行いなさい」という強いメッセージなのです。
4. 企業(受入れ機関)が負う法的責任と対策
「業者が勝手にやったこと」では済まされません。違法な業者を利用していた企業側も、法的・社会的な制裁を受ける可能性があります。
4-1. コンプライアンス違反と不法就労助長罪
行政書士法違反の業者に業務を委託していた事実が発覚すれば、企業のコンプライアンス体制が問われます。
さらに、その業者が作成した書類に虚偽が含まれていた場合、企業は入管法上の「不法就労助長罪」(5年以下の懲役または500万円以下の罰金)の共犯として捜査対象になるリスクがあります。
「知らなかった」としても、過失があれば処罰の対象となり得ます。
4-2. 契約形態の見直し(適法化のポイント)
2026年の施行に向け、企業は現在の登録支援機関との契約内容を見直す必要があります。
適法な契約形態とは、以下のように「業務と対価が明確に分離されている」状態です。
・生活オリエンテーション、送迎、相談対応など。
・対価:「支援委託費」として支払う。
・在留資格認定証明書交付申請、変更申請、期間更新申請書の作成・提出。
・対価:「行政書士報酬」として、行政書士(法人)に直接支払う。
「全部まとめて〇万円」という契約は、改正法に抵触するリスクが最も高い形態です。面倒であっても、金銭の流れを透明化することが、企業自身を守ることにつながります。
5. 「パッケージ」からの脱却:正しいパートナー選定基準
これからの登録支援機関選びにおいて、重視すべきは「安さ」や「手軽さ」ではなく、「業務分掌の明確さ(セグレゲーション)」です。
5-1. 「餅は餅屋」の原則
登録支援機関の本分は、あくまで「外国人の生活支援」です。言葉の壁を取り払い、日本での生活に馴染めるようサポートすることに特化すべきです。
一方、在留資格の手続きは「法務」です。 この2つをごちゃ混ぜにして商売をしている業者ではなく、「支援はプロとしてしっかり行いますが、ビザ申請は提携する行政書士(または御社指定の行政書士)と直接契約してください」と案内できる事業者こそが、改正法を正しく理解している誠実なパートナーと言えます。
5-2. 行政書士法人が運営する登録支援機関の強み
市場には、行政書士法人が母体となって運営されている登録支援機関も存在します(当法人もその一つです)。 この形態の最大のメリットは、「法的にクリーンなワンストップ」が実現できる点です。
• 登録支援機関としての支援契約
• 行政書士法人としての法務委任契約
これらを内部で明確に分け、請求項目も「支援費」「行政書士報酬」と別々に計上することで、改正行政書士法第19条の「いかなる名目...」という規制に抵触することなく、実務上の連携をスムーズに行うことが可能です。 「窓口は一つがいいが、コンプライアンスは徹底したい」という企業にとって、もっとも合理的な選択肢となります。
6. まとめ:2026年に向けた準備を今から
今回の行政書士法改正は、単なる字句の修正ではありません。「名目を変えて報酬を得る」という、長年グレーゾーンとされてきた商慣習に対する、国からの「レッドカード」です。
2026年1月まではまだ時間があるように思えますが、契約の見直しや委託先の選定には時間がかかります。 特に、現在「支援費込みでビザ申請無料」というサービスを受けている企業様は、その契約が将来的に違法となる可能性が高いため、早急な対策が必要です。
1. 現在の契約書・請求書に、ビザ申請費用の名目が曖昧に含まれていないか?
2. 書類を作成しているのは誰か?(無資格のスタッフが作成していないか?)
3. 委託先は、2026年の法改正を認識し、対策を講じているか?
外国人人材の受入れは、息の長いプロジェクトです。 目先のコスト削減にとらわれず、将来にわたって安心して雇用を継続できる「適法な体制」を構築してください。
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