令和7年(2025年)4月から、技能実習と特定技能(1号)の外国人介護人材も一定の要件のもと、訪問介護を行うことができるようになりました。
これまで、外国人介護人材で訪問介護に従事できるのは、在留資格「介護」、EPA介護福祉士に限られていました。
この制度のスタートにより、訪問介護を担える外国人介護人材の増加が見込まれ、訪問介護における人手不足の解消が進むことが期待されています。
ただ、訪問介護で外国人材を活用するためには様々な要件をクリアしなければなりません。
この記事では、その注意点やポイントを解説します。
目次
介護分野における外国人材の活用状況
介護分野では、人手不足が深刻になっています。
厚生労働省が令和6年7月に発表した「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」によると、令和8年度には約240万人、令和22年度(2040年度)には約272万人の職員が必要になるとされています。
その中でも訪問介護は、令和5年度において有効求人倍率が14.14倍(施設介護は3.24倍)となっており、人材不足が特に深刻です。(訪問介護事業への支援について(R6.9.12)より)
こうした状況にあることから、介護分野、特に訪問介護における外国人人材の活用は必要不可欠となっています。
現在でも、介護分野で外国人人材の受け入れが行われています。
在留資格「介護」 | 10,468人(令和6年6月末時点) |
EPA介護福祉士 | 3,304人(うち資格取得者476人)(令和7年1月1日時点) |
技能実習 | 15,909人(令和5年12月末時点) |
特定技能(1号) | 43,233人(令和6年11月末時点・速報値) |
このうち、訪問介護を担うことができるのは、在留資格「介護」とEPA介護福祉士だけです。層の厚い技能実習、特定技能(1号)では、これまで訪問介護が認められていませんでした。
「利用者の居宅において、介護職が1対1で介護サービスを提供するという業務内容の特性」を踏まえてこのような扱いになっていました。
厚生労働省は、こうした状況を打開するために、令和7年4月から、技能実習、特定技能(1号)にも、訪問介護を認める方針を打ち出しました。
技能実習・特定技能外国人を訪問介護に従事させる際の要件
技能実習・特定技能外国人を訪問介護に従事させる場合、受入事業所は、介護職員初任者研修課程等を修了した外国人介護人材を訪問介護等の業務に従事させることとし、その場合にあっては、以下の①~⑤の事項を遵守することとしています。
①研修の実施 | ○ 受入事業所において、利用者やその家族の生活習慣や利用者個々の状態に配慮したサービス提供を可能とするための研修として、以下の内容を含む研修を行うこと。
|
②一定期間の同行訪問等必要なOJTの実施 | ○ 利用者やその家族と信頼を醸成し、加えて居住環境等といった周辺環境も含めた利用者の特性に応じたサービス提供を行うため、外国人介護人材が訪問系サービスの提供を一人で適切に行うことができるように、一定期間、サービス提供責任者や利用者を担当している先輩職員などが同行するなど必要なOJTを行うこと。 |
③外国人介護人材への丁寧な説明・意向確認、キャリアアップ計画の策定 | 〇 あらかじめ従事させる業務の内容や注意事項等について丁寧な説明を行い、その意向を確認すること。 ○ 本人と十分にコミュニケーションをとった上で、当該外国人介護人材が習得すべき技能や目指すべき姿を明確にしたキャリアパスを構築するとともに、そのキャリアパスの実現に向けた計画的な取組が必要であることから、キャリアアップ計画を当該外国人介護人材と共同して策定すること。○ 策定したキャリアアップ計画については、本人の意向、日本語能力修得目標などを含む自らの目指すべき姿や、事業者による支援計画を含め実現に向けたステップへの理解を促すため、当該外国人介護人材とも共有すること。 |
④ハラスメント対策の実施 | ○ 以下に掲げる対応を行うこと。
|
⑤現場で不測の事態が発生した場合等に対応するためのICTの活用を含めた環境整備 | ○ 以下に掲げる対応を行うこと。
○ 上記の対応においては、業務の負担軽減や、利用者の居宅において不測の事態が起こった際に適切に対応できるようにする観点から、コミュニケーションアプリの導入など、ICTの活用が考えられること。 |
また、外国人介護人材が訪問系サービスに従事する場合には、受入事業所は、以下の⑥⑦についても対応を求めることとしています。
⑥外国人介護人材の実務経験等 | ○ 提供するサービスの質の担保の観点等から、外国人介護人材が訪問系サービスに従事するに当たっては、介護事業所等での実務経験が1年以上ある外国人介護人材であることを原則とすること。 |
提供するサービスの質の担保の観点等から、外国人介護人材が訪問系サービスに従事するに当たっては、介護事業所等での実務経験が1年以上ある外国人介護人材であることを原則とする。受入事業所の判断で、例外的に、実務経験が1年に満たない外国人介護人材を訪問系サービスに従事させる際には、
○ N2相当など在留資格上求められている日本語能力よりも高いレベルでの能力を有する場合に限定する、かつ、
○ 同行訪問については、利用者ごとに行うこととし、週1回のサービス提供の場合(※)には、
- 同行訪問を半年行う
- ただし、利用者・家族の同意が得られる場合には、同行訪問を3ヶ月行った上で、サービス提供時に見守りカメラを活用するなどICTを用いて常に事業所とやりとりができるようにすることで対応することも可能とするといった措置を受入事業所に求める。
※ 同行訪問について、利用者に対して、週2回のサービス提供の場合は3か月、週3回以上の場合は、2か月行うこととする。利用者・家族との信頼醸成や利用者特性に応じたサービス提供を行うために、2ヶ月以上の同行訪問を求め、それ以上の同行訪問期間の短縮は認めない。また、利用者の状況等を勘案しつつ、外国人介護人材が訪問系サービスの提供を一人で適切に行うことができるようにするため利用者ごとに必要な期間について行うよう、受入事業者において適切に判断することが必要。
⑦利用者・家族への説明 | ○ 受入事業者において、利用者やその家族に対して事前に丁寧な説明を行うこと。
○ 具体的には、外国人介護人材が利用者の居宅に訪問して介護業務を行う可能性がある場合には、当該利用者やその家族に対し、以下の点などについて書面を交付して説明し、当該利用者又はその家族に当該書面に署名を求めること。
|
出典:厚生労働省「外国人介護人材の訪問介護等訪問系サービスへの従事について」
技能実習・特定技能外国人を訪問介護に従事させる際の配慮事項について
外国人介護人材が訪問系サービスに従事する場合にあたって、受入事業者に対しては、上記の要件に加え、以下の①②についても配慮を求めることとしています。
①外国人介護人材の訪問先の選定
外国人介護人材については、コミュニケーション能力、介護の技術の状況など、それぞれが有する能力等は個人によって異なります。また、利用者についても、その状態像等はそれぞれ異なります。
そのため、訪問先の選定への配慮等が必要です。具体的には下記の通りです。
- 外国人介護人材と利用者の個別性を考慮する
- 介護人材の能力(日本語・介護技術など)や、利用者の健康状態・生活状況などは人それぞれ。
- そのため、訪問先を選ぶ際は、ハラスメントが起きにくいよう配慮しながら、両者の特性・希望を踏まえて総合的に判断する。
- 記録と丁寧な説明を行う
- 判断の経緯は適切に記録しておくこと。
- 利用者や家族に対しても、事前に介護人材について丁寧な説明を行い、ミスマッチを防ぐ。
- 同行訪問期間中の確認と指導
- 同行訪問中に、介護人材に必要な指導を行う。
- 利用者や家族の意向も再確認し、介護人材が適切な支援を提供できるかを判断する。
- 日本語能力と現場対応力のバランス
- 介護分野では日本語でのコミュニケーションが不可欠だが、試験の語学力と現場での実際の能力は必ずしも一致しない。
- 現場経験を通じてスキルアップすることも大切であり、日本語能力だけで判断しないことが重要。
②外国人介護人材の状況に応じたOJTの実施等
各在留資格の介護分野に係る告示でも規定しているとおり、受入事業者は、外国人介護人材が訪問系サービスの提供を一人で適切に行うことができるものと受入事業者が認めるまでの一定期間、サービス提供責任者等が同行するなどにより必要なOJTを行うこととされています。
そのため、外国人介護人材の状況に応じたOJT等への配慮が求められます。
○ 外国人介護人材の実務経験や能力等に応じて、サービス提供責任者等が十分配慮しながら徐々に業務に慣れることができるよう、OJTの期間を通常より長くすることや、面談を定期的に行うこと、きめ細かな日本語の学習支援に取り組むことなど、特段の配慮を行うこと。
○ 適切に介護サービスの提供ができるよう、同行訪問の回数・期間をどう設定するかだけでなく、当該外国人介護人材の業務への従事状況を踏まえつつ、特に訪問系サービスの従事開始当初においては、事業所に戻ってきた後の指導・面談の機会を多く設定することや、日本語能力を踏まえて語学力に関する支援を手厚く行うことなど、それぞれの外国人介護人材の状況・能力等に応じた適切な支援を行うこと。
訪問介護に従事させる際の要件と配慮事項の確認について
訪問介護に従事する外国人介護人材を受け入れる事業所については、
上記「技能実習・特定技能外国人を訪問介護に従事させる際の要件」の①~⑤を適切に実施する体制を有していること及び⑥~⑦に対応すること
が求められます。これらは、当該事業所から提出された書類に基づいて事前に確認し、これらが全て確認できた事業所に対し、訪問系サービスに従事する外国人介護人材ごとに適合確認書が交付されます。
また、適合確認書の交付を受けた事業所における上記要件①~⑦の遵守状況については、巡回訪問等実施機関が巡回訪問等を通じて確認することとされています。その際、これらの事項が適切に実施されているかどうか、事業管理者、サービス提供責任者、外国人介護人材本人等から確認します。
巡回訪問等の結果、上記要件①~⑦の適切な履行が確認できない場合は、巡回訪問等実施機関または厚生労働省が指導等を行うとともに、指導等を通じても改善が見込まれない場合には、外国人介護人材の受入れを認めない等の措置を講じられます。
訪問介護分野において外国人材を活用するメリット
上述の通り、技能実習及び特定技能外国人における訪問介護については、様々な要件が課せられ、罰則も厳しく規定されています。
外国人介護人材の違反が確認された場合は、「技能実習計画の認定取消し」等に直結するため、受入れ事業所は、すべての制度内容を理解し遵守するために、時間やコストをかけ社内体制を構築しなければなりません。
一方で、外国人による訪問介護は、人手不足の解消やサービスの向上などのメリットが存在するのも事実です。
訪問介護の分野で外国人材の活用を進めることの主なメリットについてご紹介します。
主なメリットは、
- 人材不足解消
- サービス品質の向上
それぞれ解説しましょう。
人材不足解消
冒頭でも紹介したように、介護業界は人手不足が深刻です。
特に、訪問介護では、令和5年度において有効求人倍率が14.14倍となるなど、人材が集まりにくい現状があります。
そのため、外国人人材の活用の必要性も高まっていましたが、これまでは、訪問介護に従事できる外国人は、在留資格「介護」とEPA介護福祉士だけでした。
令和7年4月からは、技能実習、特定技能(1号)の外国人にも訪問介護が認められるようになることから、人手不足解消に向けて前進することが期待されています。
サービス品質の向上
介護業界は、人手不足であるだけでなく、介護職員の高齢化も課題となっています。
公益財団法人介護労働安定センターが行っている令和5年度介護労働実態調査結果によると、介護職員の平均年齢は48.4歳となっています。
訪問介護に限ると、平均年齢は50.5歳です。また、30歳未満の労働者よりも65歳以上の労働者の方が多いのが実情です。
訪問介護では、介護職員が一人で利用者の自宅を訪問し、介護に当たります。
しかし、介護職は体を使う業務が多いことから、高齢の介護職員だと身体的負担が重く、労働災害の危険もあります。若い介護職員と比べてできることには限りがあります。
一方で、外国人で介護に従事している方は若い人材が多いです。
特定技能制度運用状況(令和6年12月末)によると、特定技能(1号)の介護人材については、44,367名のうち、18歳から29歳までの年齢層の方が31,849名となっています。
技能実習、特定技能(1号)の外国人にも訪問介護が解禁されることにより、人材の若返りと共に、サービス品質の向上にも繋げられると期待されています。
訪問介護分野において外国人材を活用するうえでの注意点
訪問介護分野において外国人材を活用する際には様々な注意点があります。
まず、外国人の方は、日本の生活様式に慣れているとは限りませんし、利用者とのコミュニケーションでも支障がでる可能性があります。
また、利用者側も訪問介護職員が外国人であることに不安を感じることもあるでしょう。
そこで、受入事業所は、外国人材と利用者側の双方に対して丁寧なサポートを行う必要があり、その内容が上記に記載した遵守事項として定められています。また訪問介護に従事できる外国人は、原則として、介護事業所等での実務経験が1年以上ある人に限られます。
(実務経験が1年未満で従事させるには、日本語能力N2相当などの高い能力が必要です。)
必ず要件等を細部まで確認して、外国人介護人材の活用を進めましょう。
外国人材の活用は、ぜひご相談ください。
2025年(令和7年)4月から、技能実習と特定技能(1号)の外国人介護人材も訪問介護を担えるようになりました。
受入事業所がこうした外国人介護人材を活用するためのポイントを解説しました。
実際の受け入れに当たっては、検討すべきことがたくさんありますし、様々な手続きが必要になります。
検討事項の多さや手続きの困難さにより、外国人介護人材を活用したくても躊躇っている事業所も多いのではないでしょうか。
そのような場合は、外国人介護人材の活用に詳しい行政書士に相談してください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_56271.html
訪問介護事業への支援について
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001303387.pdf
令和5年度 介護労働実態調査結果
https://www.kaigo-center.or.jp/report/jittai/
特定技能制度運用状況(令和6年12月末)
https://www.moj.go.jp/isa/applications/ssw/nyuukokukanri07_00215.html
この記事の監修者
行政書士法人タッチ 代表行政書士
湯田 一輝
2018年8月 ビザ申請・帰化申請専門の「ゆだ行政書士事務所」設立
2022年4月 個人事務所を行政書士法人化「行政書士法人タッチ」
専門分野:外国人在留資格、帰化申請
外国人ビザ関係を専門とし、年間1000件以上の相談に対応
【セミナー実績】
国際行政書士養成講座、公益財団法人戸田市国際交流会、埼玉県日本語ネットワーク、行政書士TOP10%クラブ、行政書士向け就労ビザ講習会など多数
【運営サイト】
行政書士法人タッチ https://touch.or.jp/
国際結婚&配偶者ビザサポートセンター https://touch.or.jp/marriage/
帰化申請サポートセンター https://visa-saitama.net/kika/
就労ビザサポートセンター https://touch.or.jp/work/
永住ビザサポートセンター https://touch.or.jp/eizyu/
ビザサポートセンター https://www.yuda-office.jp/