育成就労制度とは?技能実習廃止の真実と企業が備えるべき「転籍・コスト・移行」の全貌
「技能実習制度が廃止され、育成就労制度が創設される」

このニュースは、日本の外国人雇用における歴史的な大転換です。

2024年(令和6年)6月、入管法等の改正法が成立し、新制度の施行日が2027年(令和9年)4月1日となることが政令で決定しました。

これまで「安価な労働力」として技能実習生を受け入れてきた企業は、新制度への対応を誤れば、人材確保が困難になるだけでなく、法令違反のリスクにも晒されます。

本記事では、外国人雇用の実務に精通した行政書士法人タッチが、新制度「育成就労」の仕組み、導入の背景、企業経営に直結する「コスト・転籍・日本語教育」の詳細、そして2027年に向けた移行スケジュールを、最新の省令案レベルの情報まで踏み込んで徹底解説します。

目次

なぜ今、「育成就労制度」へ変わるのか?(制度創設の背景)

「国際貢献」から「人材確保」への根本的な方針転換

従来の「技能実習制度」は、建前として「開発途上国への技能移転(国際貢献)」を掲げていました。しかし、実態は日本の人手不足を補う労働力の調整弁として使われており、この「目的と実態の乖離」が、低賃金労働や人権侵害、失踪といった深刻な問題の温床となっていました。

法務省の有識者会議での議論を経て、政府はついにこの建前を撤廃しました。

新設される「育成就労制度」は、法律の目的として正面から「日本の人手不足分野における人材の育成・確保」を明記しています。

制度のゴールは「特定技能」への定着

新制度は、単体で完結するものではありません。

「育成就労(3年間)」を、これまでキャリアパスが不明確だった「特定技能制度」への助走期間(育成期間)として位置づけました。

これまで: 技能実習(3〜5年)→ 帰国が原則(一部が特定技能へ)。
これから: 育成就労(3年)→ 特定技能1号(5年) → 特定技能2号(定住・家族帯同)。

つまり、企業は外国人を「数年で入れ替わる実習生」としてではなく、「将来のコア人材(正社員候補)」として採用・育成する視点が不可欠になります。

徹底比較!「技能実習」と「育成就労」の違い

企業様が最も気になる「具体的に何が変わるのか」について、新旧制度の決定的な違いを比較表にまとめました。

比較項目 旧:技能実習制度 新:育成就労制度
制度の目的 国際貢献(開発途上国への技能移転) 人材育成・人材確保(日本の人手不足解消)
受入れ分野 90職種以上の「移行対象職種」 「育成就労産業分野」(特定技能の分野と原則一致)
転籍(転職) 原則不可(やむを得ない事情がある場合のみ) 要件を満たせば「本人意向」での転籍が可能
日本語要件 入国時の必須要件なし 就労開始前に「A1相当(N5)」合格等が必須
受入れ機関 実習実施者 育成就労実施者
支援機関 監理団体 監理支援機関(外部監査人の設置義務化など要件厳格化)
費用負担 送出機関への手数料規制が曖昧 外国人本人の負担上限設定(月給2か月分)+受入れ機関の適正分担

特に影響が大きい「対象分野」「育成プロセス」「転籍」について詳しく解説します。

対象となる「育成就労産業分野」

新制度での受入れ分野は、原則として「特定技能制度」の受入れ分野(特定産業分野)と一致します。

これにより、「実習」から「特定技能」への移行時に、職種や業務区分の不一致でビザが変更できないという従来のミスマッチが解消されます。

3年間の育成プロセス

育成就労の在留期間は原則3年間です。この間に、以下の目標達成が義務付けられます。

技能: 技能検定試験3級相当、または特定技能1号評価試験の合格。
日本語: 日本語能力試験N4(A2)相当以上の合格。

これらをクリアすることで、「特定技能1号」へ移行できるルートが確立されます。

企業経営への最大インパクト「転籍(転職)」のルール

企業様が最も懸念されているのが、「せっかく育てた人材が他社に引き抜かれるのではないか(転籍の自由化)」という点でしょう。

新制度では、外国人の人権保護の観点から「本人意向による転籍」が認められますが、無制限ではありません。

1年〜2年」の転籍制限期間

無秩序な人材流出を防ぐため、同じ受入れ機関(企業)で就労しなければならない期間が設定されます。

この期間は、分野ごとの事情に合わせて「1年以上2年以下の範囲」で設定されます。

制限期間内: パワハラなどの「やむを得ない事情」がない限り転籍不可。
制限期間経過後: 一定の要件を満たせば、本人の意思で転籍可能。

転籍のハードル(要件)

「辞めたい」という理由だけで自由に動けるわけではありません。転籍希望者には以下の高いハードルが課されます。

技能要件: 技能検定基礎級などの試験に合格していること。
日本語要件: 日本語能力試験N5(A1)レベル相当の試験に合格していること。
転籍先要件: 転籍先が「優良」などの要件を満たす適正な受入れ機関であること。

コスト回収の仕組み(転籍費用負担金)

ここが実務上の重要ポイントです。

前の企業がかけた採用・育成コスト(入国前の送出し手数料や教育費など)が無駄にならないよう、「転籍先の企業」が「転籍元の企業」に対して、一定の費用(転籍費用負担金)を支払う仕組みが導入されます。

【支払額の計算式(案)】

「初期費用の一定額」×「在籍期間に応じた係数(按分率)」

例えば、転籍元での就労期間に応じて、以下のような按分率が検討されています。

• 就労1年半未満で転籍:費用の約6分の5を補償
• 就労2年程度で転籍:費用の約2分の1を補償
• 就労2年半以上で転籍:費用の約4分の1を補償

これにより、最初の受入れ企業のリスクが一定程度軽減される設計となっています。

義務化される「日本語教育」と支援体制

「現場で覚えればいい」という考え方は、新制度では通用しません。育成就労制度では、日本語能力の向上が必須要件となり、企業にはその支援が義務付けられます。

入国前の要件(A1相当)

これまでは入国時の日本語要件はありませんでしたが、新制度では「就労開始までにA1(N5)相当以上の試験合格」または「認定日本語教育機関等での講習受講(A1相当講習)」が必須となります。

入国後の講習義務(100時間以上)

受入れ企業(または監理支援機関)は、入国後講習において日本語教育を実施する必要があります。

A1未取得者(講習受講で入国した場合): 認定日本語教育機関のカリキュラム(就労課程)で100時間以上の「A1相当講習」を受けさせる義務があります。
A1取得済み者: 義務的な講習時間は短縮されますが、さらなる向上(A2目標)のための支援が求められます。

就労中の支援(A2目標)

特定技能へ移行するためには、3年以内に「A2N4)相当」の合格が必要です。
企業は、就労期間中も「A2目標講習(100時間以上)」を受講できるよう、受講費用の負担や時間の確保といった措置を講じる義務があります。

これはオンライン講習でも可能ですが、双方向性のある質の高いものが求められます。

コスト構造の変化(初期費用と手数料)

不透明だった「送出し機関への手数料」にメスが入ります。

外国人本人の負担上限(月給の2ヶ月分)

これまで実習生が母国で多額の借金を背負う原因となっていた手数料について、「外国人本人が送出機関へ支払う金額は、日本での月給の2ヶ月分まで」という法的上限が設けられます。

企業の負担増と透明化

外国人本人の負担が減る分、送出機関の運営コストの一部は、日本の受入れ企業側が「適正な送出し手数料」として分担することになります。

「高い手数料を払えば良い人材が来る」という従来の裏取引的な構造は禁止され、送出機関と受入れ機関の間でのキックバック(リベート)の授受は厳罰の対象となります。

結果として、企業の初期費用負担は表面上増える可能性がありますが、転籍時の補償制度とセットで考える必要があります。

新しいプレイヤー「監理支援機関」と「受入れ人数枠」

現在の「監理団体」は、「監理支援機関」へと名称を変え、許可要件が厳格化されます。

外部監査人の設置義務化: 運営の透明性を高めるため、外部の監査人を置くことが必須となります。
独立性の確保: 受入れ企業と密接な関係(グループ会社など)にある役職員が監理業務に関与することが制限されます。

受入れ人数枠(優良企業への優遇)

受入れ可能な外国人の人数枠(常勤職員数に対する比率)は、企業の「優良性」によって大きく変わります。

• 一般企業:常勤職員数の15%(1/6程度)まで。
• 優良な受入れ機関:常勤職員数の30%まで。
【新設】優良かつ地方の企業: 監理支援機関も優良であり、かつ「指定区域(過疎地域など)」に所在する場合は、最大で45%まで拡大される特例措置が設けられます。

2027年施行までのスケジュールと経過措置

2027年(令和9年)41日の施行日に向けて、どのような準備が必要でしょうか。

施行までのタイムライン

2025年(令和7年)〜2026年(令和8年):

政府による「基本方針」および「分野別運用方針」の策定(ここで詳細な転籍制限期間などが決まります)、主務省令(細かい規則)の公布、監理支援機関の許可申請、新機構(外国人育成就労機構)の設立準備などが進められます。

2027年(令和9年)41日:

改正法施行、育成就労制度スタート。

現在の「技能実習生」はどうなる?(経過措置)

もっとも現場が混乱しやすいのが、新旧制度の並走期間です。以下の原則を押さえてください。

施行日前に技能実習で入国した者

施行日以降も、在留期限までは「技能実習」の在留資格のまま活動できます。新制度に強制的に切り替わるわけではありません。

「技能実習」の継続

施行日時点で技能実習を行っている者は、所定の試験に合格すれば「技能実習2号」「技能実習3号」へ移行し、最大5年まで実習を継続可能です(育成就労への資格変更は原則不可)。

新規入国

202741日以降の新規入国は、原則として「育成就労」となります。ただし、施行日直前に技能実習計画の申請を行っていた場合など、例外的に技能実習生として入国できる経過措置も設けられています。

行政書士法人タッチからの提言:企業が今やるべきこと

育成就労制度は、もはや「安い労働力」を求める制度ではありません。

「コストをかけて人を育て、正当な待遇で定着してもらう」という、当たり前の雇用慣行を外国人材にも適用する制度です。

この変化に対応できない企業は、制度から淘汰されるだけでなく、少子高齢化が進む日本国内で労働力を確保する手段を失うことになります。

2027年に向けて着手すべき3つのアクション

「優良」認定の取得準備
受入れ人数枠を確保するため、現在の技能実習制度下での「優良実習実施者」要件(法令遵守、待遇改善、技能検定合格率など)を満たす体制を今のうちから構築してください。

日本語教育カリキュラムの導入
新制度では日本語学習が義務です。オンライン教材の導入や、地域の日本語教室との連携など、教育支援体制の検討を始めてください。

「選ばれる職場」作り
転籍が可能になる以上、給与水準や住環境、職場の人間関係といった「リテンション(定着)施策」が日本人社員以上に重要になります。

「自社の職種は育成就労の対象になるのか?」

「特定技能と育成就労、どちらで採用すべきか?」

「転籍費用負担金の試算をしてみたい」

まだ不確定な要素も多い過渡期だからこそ、正確な情報を掴むことが経営防衛につながります。

行政書士法人タッチでは、最新の省令案や運用方針を常にモニタリングし、貴社に最適な外国人雇用戦略をご提案します。制度変更への不安がある企業様は、ぜひ一度ご相談ください。


【お問い合わせ】

行政書士法人タッチ