
就労ビザ(在留資格)に関して、不正が発覚した場合は、ビザが取り消されてしまうことがあります。
偽りその他不正の手段で在留資格を得た場合のほか、外国人が在留資格に基づく本来の活動を行っていない場合も取り消しの対象となることがあります。
企業としては、雇用する外国人労働者に在留資格に該当する業務を行わせるとともに、在留資格の取消しについての意見聴取通知書が送られてきた場合は、外国人労働者によく事情を聴くといった対応が必要です。
目次
就労ビザ(在留資格)の取り消し制度とは
就労ビザ(在留資格)を取得すれば、在留期間中は何をしていても安心と言うわけではありません。
就労ビザは取り消されることがあるため、取消事由に該当しないように注意する必要があります。
在留資格取消しの根拠法と目的
在留資格取り消し制度は、日本に滞在する外国人が偽りその他不正の手段で在留資格を得ていたり、在留資格に基づく本来の活動を行っていない場合に、その外国人を退去強制の処分とすることで、在留資格制度の適正な運用を図ることを目的としています。
出入国管理及び難民認定法第22条の4に根拠規定が置かれていて、令和7年の時点では10の取消事由が定められています。
その中でも、適用されやすい取消事由は次の3つです。
●二号:偽りその他不正の手段により、上陸許可の証印等(上陸許可の証印若しくは在留資格の許可)を受けたこと。
●五号:在留資格をもって在留する者が、当該在留資格に係る活動を行っておらず、かつ、他の活動を行い又は行おうとして在留している場合(ただし、正当な理由がある場合を除く)。
●六号:在留資格をもって在留する者が、当該在留資格に係る活動を継続して3か月以上行っていない場合(ただし、当該活動を行わないで在留していることにつき正当な理由がある場合を除く)。
「不許可」と「取り消し」の違い
在留資格を喪失させる制度としては、「不許可」と「取り消し」の2つのパターンがあります。
不許可とは、在留期間の更新許可申請や在留資格の変更許可申請を行ったのに、不許可となってしまい、日本に在留できなくなってしまう場合を意味します。
不許可処分を受けても直ちに出国しなければならないわけではなく、現在有効な在留資格の在留期間中は滞在が認められます。
一方、取り消しは、現在有効な在留資格が取り消されてしまうことを意味しています。取り消し処分を受けてしまうと、原則として指定された期日までに日本から出国しなければならないことになります。
就労ビザが取り消される主なケース
在留資格取消事由は、令和7年の時点では10つ定められていますが、在留資格に応じた活動をしていないことを理由とする取消し(五号、六号)が最も多くなっています。
代表的なケースを紹介します。
虚偽の申請・不正行為による取得
在留資格許可申請の際に、虚偽の申請を行っていたり、何らかの不正な行為を行っていたことが発覚して、在留資格を取り消されてしまうケースです。
例えば、外国人が実際には単純労働に従事するのに、偽って在留資格「技術・人文知識・国際業務」で申請を行っている場合です。
在留資格を不正に取得していたことが発覚した場合は、出入国管理及び難民認定法による罰則を受けてしまいます。
外国人の方は、「3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」という重い刑罰に処せられる可能性があります。
在留資格該当性・活動実態の喪失
在留資格は適正に取得して、在留資格に該当する業務を行っていたものの、転職や退職などにより、在留資格に該当する業務を行わなくなったり活動実態がなくなった場合です。
以前は、在留資格に係る活動を継続して3か月以上行っていない場合だけが取消事由でしたが、現在では、正当な理由なく活動を行っていない場合など、3か月以内でも取り消されるケースもあります。 また、本来の在留資格に基づく活動を行わずに、他の活動に従事している場合も取り消しの対象となります。たとえその活動が、他の「在留資格該当性のある職務」であったとしても、変更許可を受けずに行っていれば、3か月の経過を待たずに在留資格が取り消される可能性があります。
日本での活動内容が変わった場合はすぐに、在留資格変更許可申請を行う必要があります。
資格外活動の許可違反
資格外活動の許可を受けている場合は、在留資格で認められた活動以外の活動も可能になります。
代表的な事例は、留学生がアルバイトをすることですが、1週間あたり28時間以内という制限があります。
この制限を超えてアルバイトをしている場合は、資格外活動の許可違反となり、在留資格が取り消されてしまう可能性があります。
就労ビザ(在留資格)の取り消しの流れ・手続き
在留資格はいきなり取り消されるわけではなく、法律により手順が決まっています。
まず、在留資格の取消事由の有無については、入国審査官等が事実調査を行います。
その後、次の流れで在留資格の取り消しに進みます。
●意見聴取通知書の送達
●入国審査官による意見聴取
●結果の通知
まず、意見聴取通知書が送られてきます。この書類には、意見聴取日が指定されているので外国人の方は、その日に出入国管理局に出頭します。
そして、入国審査官による「意見聴取」を受けます。
この際、外国人は、意見を述べる他、証拠を提出したり、資料の閲覧を求めることができます。
「意見聴取」の後は、法務大臣が在留資格の取消しか、取り消さない旨の判断を行い、結果が通知されます。
在留資格を取り消さない場合はこれまで通り、在留が認められます。
一方、在留資格を取り消す場合は、出国するまでの期間を指定し退去するよう求められるか、退去強制となります。
外国人従業員が「ビザを取り消された」らどうなる?
外国人従業員が就労ビザ(在留資格)を取り消されてしまった場合は、退去強制となるほか、再入国が難しくなるリスクがあります。
帰国・出国義務の発生
就労ビザ(在留資格)を取り消された場合、その外国人従業員は、原則として、最長30日間で出国するまでの期間を指定され、その期間内に出国しなければならないことになります。
退去強制(強制送還)の対象となる可能性
就労ビザ(在留資格)を取り消された場合は、退去強制の対象となることもあります。
偽りその他不正の手段により在留資格を得ていたために取り消された場合は、すぐに退去強制の対象となります。
それ以外の事由、例えば、当該在留資格に係る活動を行っていない場合や他の活動を行っていることが発覚して取り消されたケースでは、まず、出国するまでの期間が指定されます。この期間内に出国しなかった場合は退去強制の対象になります。
再入国・再申請への影響
就労ビザ(在留資格)を取り消された結果、退去強制となった場合、日本への再入国や在留許可の再申請が難しくなります。
まず、退去強制となった場合は、上陸拒否期間といい、一定期間は日本へ入国できなくなります。
具体的には次のように定められています。
●リピーター(過去に日本から退去強制された、または出国命令を受けて出国したことが複数回ある者):退去強制された日から10年
●退去強制された者:退去強制された日から5年
●出国命令により出国した者:出国した日から1年
企業が取るべき対応とコンプライアンス上の注意点
雇用する外国人労働者の在留資格が取り消されてしまうケースでは、企業も出入国管理及び難民認定法による罰則の対象になることがあります。
これを防ぐためには、外国人従業員の在留資格に関するリスク管理を徹底することが大切です。
雇用企業に課される義務と罰則リスク
企業が外国人労働者を雇用する場合は、在留資格に該当する業務を行わせることが大切です。
例えば、在留資格「技術・人文知識・国際業務」で働く外国人は専門技術や知識が必要な業務に従事することが想定されており、誰でもできる単純作業に従事することはできません。
外国人に不法就労活動をさせた場合、企業側も「5年以下の懲役または500万円以下の罰金、又はこれを併科する」という重い刑罰に処せられてしまいます。
不法就労関係の罰則は、両罰規定とされており、法人の代表者だけでなく、株式会社等の法人に対しても「1億円以下の罰金刑」が科せられてしまうので注意しましょう。
雇用契約中の外国人従業員に「異変」が見られたときの対応
外国人従業員に、意見聴取通知書が届いた場合、企業の担当者は、本人から事情を丁寧に聞くことが大切です。
正当な理由があるのに、その理由が出入国管理局側に伝わっていないこともあります。
この場合は、行政書士等の専門家に相談するようアドバイスしたり、企業が必要書類を揃えるといった対応も必要です。
企業が負う入管への届出義務
在留資格に関する届出は基本的に外国人本人が行うものですが、届出に際しては、企業が発行する書類が必要なこともあるため、必要に応じて書類を準備するなどのサポートが必要です。
また、企業としても、就労ビザを持つ外国人労働者の受入れを開始(雇用・役員就任等)又は終了(解雇・退職等)した場合は届出が必要になります。
また、外国人雇用状況届出の提出が義務付けられている場合もその提出を忘れないようにしましょう。




