2024年6月、改正入管法などが成立し、現在の「技能実習制度」に代わる新たな在留資格「育成就労(いくせいしゅうろう)」の創設が決まりました。この新制度は2027年(令和9年)までの施行が予定されており、現在、国による詳細な運用方針の議論が進められています。

今回の改正で特に注目すべきポイントの一つが、監理団体(新制度では「監理支援機関」)のガバナンス強化です。その中心的な役割を担うのが「外部監査人」です。

本記事では、行政書士の視点から、育成就労制度における「外部監査人」について、要件、氏名の公表、技能実習制度との違いの3つのポイントを中心に解説します。

1. 育成就労制度における「監理支援機関」と「外部監査人」

まず、言葉の整理をしましょう。

これまでの技能実習制度における「監理団体」は、育成就労制度では「監理支援機関」という名称になり、許可要件が厳格化されます。

監理支援機関は、受入れ企業(育成就労実施者)に対して指導・監督を行う立場ですが、その監理支援機関自体が適正に業務を行っているかをチェックするのが「外部監査人」です。

新制度では、中立・公正な立場からのチェック機能を強化するため、この外部監査人の役割が非常に重要視されています。

2. 外部監査人の要件(誰がなれるのか?)

外部監査人には、誰でもなれるわけではありません。施行規則(省令)において、以下の厳しい要件が定められています。

資格・知見に関する要件

外部監査人は、以下のいずれかに該当し、かつ監査を公正・適正に遂行できる能力を有する者でなければなりません。

  • 弁護士(弁護士法人を含む)
  • 社会保険労務士(社会保険労務士法人を含む)
  • 行政書士(行政書士法人を含む)
  • その他、育成就労に関する知見を有する者

研修の受講

資格を持っているだけでは不十分です。 過去3年以内に、主務大臣(法務大臣・厚生労働大臣)が告示で定める「外部監査人に対する講習(養成講習)」を修了している必要があります。

制度は常に変化するため、最新の法令知識をアップデートしていることが求められます。

中立性・独立性の要件(密接な関係の排除)

ここが最も重要なポイントです。監査の公正さを保つため、監理支援機関と「密接な関係」を有する者は外部監査人になれません。具体的には以下のような制限があります。

  • 過去5年以内に、その監理支援機関や、その傘下の受入れ機関(育成就労実施者)の役職員であった者は不可。
  • 現在の役職員の配偶者や二親等以内の親族は不可。
  • その他、社会生活において密接な関係を有する者(顧問契約を結んでいる場合などが該当する可能性があります)は不可。
ポイント:

過去5年以内に役職員だった場合もNGとなるなど、「過去の関わり」も含めて厳格に中立性が求められます。

3. 外部監査人の氏名の公表

今回の制度改正の大きな特徴として、透明性の確保が挙げられます。

外部監査人は、外国人育成就労機構のウェブサイト等において、その氏名を公表することに同意している必要があります。

これまでの技能実習制度では、外部監査人の氏名が一般に広く公表される仕組みは限定的でしたが、育成就労制度ではインターネットを通じて誰でも確認できるようになります。

これにより、「誰が監査を行っているか」が可視化され、外部監査人自身にもより高い責任感と透明性が求められることになります。

監査人自身の責任の増大

もし、ある監理支援機関で法令違反や人権侵害などの重大な不祥事が発生した場合、公表されている外部監査人の名前も注目されることになります。「この監査人は、不正を見抜けなかったのか?」「適切な監査をしていなかったのではないか?」という社会的評価に直結します。

この仕組みにより、外部監査人は「名前貸し」のような安易な業務受託ができなくなり、自身の職責と信用をかけて、厳格な監査を行うインセンティブ(動機付け)が働くことになります。

4. 技能実習制度(監理団体)の外部監査人との違い

「今までも外部監査人はいたけれど、何が変わるの?」という疑問を持つ事業者様も多いでしょう。主な違いは以下の通りです。

項目 技能実習制度(現行) 育成就労制度(新制度)
設置義務 「外部役員」か「外部監査人」の選択制が可能だった 原則として外部監査人による監査が必須化される方向で強化
資格要件 一定の要件はあるが、士業資格の明記は限定的 弁護士、社労士、行政書士等と明確化され、知見が重視される
独立性 過去の在職要件等の規定 「過去5年以内」の在職禁止など、独立性の要件が厳格化
禁止事項 (一般的な利益供与の禁止) 送出機関からの不当な利益供与(キックバック)や接待の禁止が明確化

※監理支援機関の許可要件として、外部監査人の設置など厳格なガバナンス体制が求められます。

特に「独立性」と「資格」が厳格化

技能実習制度では、監理団体の理事などが兼務しない「外部役員」を置くことで外部監査人の設置に代えることができましたが、新制度ではより専門的で独立した第三者によるチェックが強く求められます。

また、行政書士などの国家資格者が明示されたことで、よりプロフェッショナルな監査が期待されています。

5. 外部監査人の具体的な業務内容

外部監査人は、単に名前を貸すだけではありません。以下のような実務を行うことが省令で定められています。

定期的な確認(3ヶ月に1回以上)

監理支援機関の各事業所を訪問し、業務が適正に実施されているかを確認します。

  • 監理支援責任者等からの聴取
  • 設備や帳簿書類の確認
  • その結果を記載した「監査報告書」の作成と提出

実地監査への同行(年に1回以上)

これが新制度での重要な追加業務です。 監理支援機関は、受入れ企業(育成就労実施者)に対して定期的な監査(3ヶ月に1回など)を行いますが、外部監査人は、この「監理支援機関が企業に対して行う監査」に、年に1回以上同行しなければなりません。

監理支援機関の職員が、受入れ企業に対して馴れ合いにならず、厳しくチェックを行っているか、指導が適切に行われているかを、現場で直接確認するためです。

不正の通報義務

監査の過程で、監理支援機関による法令違反や不正行為を発見した場合は、外国人育成就労機構や主務官庁へ報告・通報する義務を負います。

6. 監理支援機関(現・監理団体)はどう備えるべきか?

2027年の制度開始に向け、現在「監理団体」として活動している皆様、あるいは新しく「監理支援機関」の許可を取ろうと考えている皆様は、以下の準備を進める必要があります。

適切な外部監査人の選定

前述の通り、要件が厳格化されているため、早めに適切な候補者を探す必要があります。

  • 士業への依頼: 行政書士、弁護士、社労士などの有資格者を探しましょう。特に入管業務に精通した行政書士は、制度の複雑さを理解しているため適任です。
  • コストの見直し: 専門家による厳格な監査となるため、従来の形式的な監査よりも報酬相場が上がる可能性があります。事業計画に盛り込んでおく必要があります。

ガバナンス体制の再構築

外部監査人は、敵ではなく「適正な運営を証明してくれるパートナー」です。

外部監査人が監査しやすいよう、日頃から帳簿類を整理し、透明性の高い組織運営を心がけることが、結果として監理支援機関としての評価(優良認定など)につながります。

まとめ:制度開始に向けた準備を

育成就労制度は、人材育成と人材確保を目的とした、日本社会にとって極めて重要な新制度です。その信頼性を担保するのが「外部監査人」です。

  • 要件: 行政書士等の有資格者で、過去5年以内に関係がないこと。
  • 公表: 氏名はネットで公表される。
  • 違い: 技能実習時代より要件が厳しく、独立性が高い。

2027年の施行に向けて、現在、国会や有識者会議等で細部の運用方針(分野別運用方針等)が議論されている最中です。行政書士法人タッチでは、最新の情報を常にキャッチアップしています。

「自社は監理支援機関になれるのか?」「外部監査人はどうやって探せばいいのか?」など、ご不明な点がございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。