2026年1月23日、政府は重要政策である「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」を決定しました。
この決定は、ホテル・旅館業界における外国人雇用、とりわけ「フロントスタッフ」や「通訳・翻訳要員」として雇用されている「技術・人文知識・国際業務(以下、技人国)」ビザの在り方に、決定的な転換を迫るものです。
これまで、技人国ビザで許可される本来の業務(フロント、企画・広報、通訳等)に加え、現場の人手不足を補う形で「特定技能」に該当するような接客・サービス業務(ベッドメイク、配膳等)を兼務することが一部で常態化していました。しかし、今回の政府決定により、こうした運用は認めないという入管庁の意思が明確に示されました。
本記事では、今回の決定の背景と入管庁の意図、そしてホテル・旅館が直ちに取り組むべき「特定技能」への移行戦略について、入管業務を専門とする行政書士法人タッチが解説します。
目次
1. 2026年、入管の方針は「黙認」から「厳格化」へ
これまで宿泊業界では、語学力のある外国人留学生などを「フロント」「通訳」「広報・企画」という名目で技人国ビザで採用するケースが一般的でした。
しかし、現場の実態としては、本来の業務に加え、人手不足を補うために、業務時間の一部において技人国に該当しない業務(客室清掃、レストランでの配膳、荷物運び等)に従事することが常態化しているケースが見られました。
こうした運用は、入管法上本来認められない「単純労働(現業)」を含むものでしたが、これまでは一定の範囲内であれば黙認・許容されていた側面がありました。
しかし、2026年1月23日の閣僚会議決定により、この状況は一変します。政府は「在留資格該当性のない活動」を徹底的に排除し、適正な在留管理を行うことを宣言しました。今後は、技人国と特定技能の活動内容は明確にすみわけされ、厳格に審査されることになります。
2. なぜ今、厳しくなるのか?厳格化に至る「時系列」と背景
今回の厳格化は、唐突なものではありません。入管庁は以前から、ホテル・旅館における技人国ビザの業務範囲について、段階的に環境を整えてきました。
① 【課題の浮上】現場業務での技人国利用の常態化
インバウンド増加に伴い、多くのホテルが「フロント」「通訳」「広報・企画」として技人国ビザの外国人を採用しました。
しかし、実態は本来の専門業務だけでなく、清掃や配膳といった現業を兼務させることが常態化しており、入管庁はこれを在留資格の趣旨に反するとして問題視していました。
② 【人手不足への対応】「特定技能(宿泊)」制度の整備
こうした宿泊業界の深刻な人手不足に対応するため、政府は「特定技能(宿泊)」制度を整備しました。
これにより、フロント、企画・広報、接客、レストランサービス等の宿泊サービスの提供に係る業務を幅広く行える正規のビザが整いました。「現場業務(現業)もできるビザ」ができたことで、技人国ビザで現業を行う必要性はなくなりました。
③ 【警告】「ガイドライン」による明確化
受け皿ができたことを受け、入管庁は「在留資格『技術・人文知識・国際業務』の明確化について(PDF)」や、「技術・人文知識・国際業務」と「特定技能」の活動の違い(PDF)」を公表。
「本来の業務とかけ離れた現業が常態化していてはならない」というメッセージを発信し、事実上の警告を行ってきました。
④ 【決定的転換】「総合的対応策」での厳格化決定(2026年1月23日)
そして今回、閣僚会議にて「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」が決定されました。
本対策では、「資格該当性のない業務に従事する事案への対策」「実態調査の強化」が明記され、これまでの緩やかな運用を改め、本来のルール通り厳格に適用することが確定しました。
結論:2026年からの入管の動き
これら一連の流れから、2026年以降、入管庁は「技人国ビザと特定技能ビザのすみわけ」を徹底し、在留資格該当性のない業務に従事させているケースの摘発・排除に動くことは確実です。
3. 「フロント業務」の定義が変わった?技人国では認められない業務
多くのホテル様が誤解されているのが、「フロント業務なら技人国でOK」という認識の運用実態です。
「チェックイン手続きや電話対応で日本語や英語を使っているから、国際業務(翻訳・通訳)に当たるはずだ」として許可を得ていても、実態としてそれ以外の業務(現業)を恒常的に兼務している場合は問題となります。
入管庁の基準において、技人国ビザのスタッフが以下のような業務を「常態的に(業務の一部として恒常的に)」行うことは認められません。
- 客室清掃・ベッドメイク
- レストランでの配膳・片付け(皿洗い等)
- 荷物の運搬(ベルボーイ業務)
- 備品の補充・巡回
これらは全て、「現場運営(宿泊サービス)」であって、「高度な専門業務」ではないからです。これまでは多少の兼務であれば緩やかに運用されていたかもしれませんが、今後は「特定技能」で行うべき業務として明確に区別されます。
※ただし、フロント業務中に急遽お客様の荷物を運ぶ必要があるなど、「一時的に」行う業務であれば、入管法上許容されます。問題なのは、最初からシフトに組み込まれていたり、毎日一定時間をこれら現業に費やしたりするケースです。
4. 徹底比較:「特定技能」vs「技人国」 業務のすみわけ
では、具体的にどのような業務分担になるのでしょうか。
入管庁の指針に基づき、「特定技能1号」「特定技能2号」「技人国」それぞれの役割と許可される業務範囲を表にまとめました。
| 在留資格 | 特定技能1号 | 特定技能2号 | 技術・人文知識・国際業務 |
| 役割のイメージ | ホテルのマルチタスクスタッフ
(現場の即戦力) |
現場のリーダー・責任者
(マネージャー・部門長) |
本部の企画・管理・専門職
(広報・経理・マーケティング等) |
| 主な活動場所 | フロント・客室・レストラン | フロント・客室・レストラン | 本部(本社)・バックオフィス
※フロント業務も可 |
| 客室清掃・配膳 | 〇 可能
(メイン業務として実施) |
〇 可能
(メイン業務として実施) |
× 不可
(研修期間や一時的なものを除く) |
| フロント業務 | 〇 可能
(チェックイン、予約受付、インフォメーション等) |
〇 可能
(1号の業務に加え、シフト管理・トラブル対応・VIP対応) |
〇 可能
(ただし現業との兼務は不可) |
| 企画・広報 | △ 補助的には可能 | 〇 可能 | 〇 可能
(マーケティング、プラン作成、翻訳業務等) |
| 求められる能力 | 相当程度の技能・日本語能力 | 熟練した技能・管理能力 | 大学等で修得した専門知識
(観光学・経営学・語学等)の応用 |
各ビザの役割詳細
特定技能1号:ホテルのマルチタスクスタッフ
フロント業務、企画・広報、接客、レストランサービス等の宿泊サービスの提供に係る業務を幅広く行えます。今日はフロント、明日はレストランのヘルプ、午後はベッドメイクといった、ホテル特有のマルチタスクな働き方が堂々とできるのは、特定技能だけの特権です。
特定技能2号:現場のリーダー・責任者(マネージャー)
熟練した技能を持ち、複数のスタッフを指導・監督するポジションです。フロントマネージャーやハウスキーピングの責任者などが該当します。長期雇用が可能で、家族帯同も認められます。
技術・人文知識・国際業務:本部の企画・管理・専門職
専門性を活かした業務に従事する必要があります。フロントに立つこと自体は可能ですが、それはあくまで語学や専門知識を活用する業務としてであり、人手が足りないからといって清掃や配膳を日常的に兼務することは認められません。本部のマーケティング担当や経理、広報といったバックオフィス業務もここに含まれます。
つまり、「フロントもやるし、忙しい時は掃除も手伝うスタッフ」は、今後は「特定技能」の領域であり、「技人国」の領域ではないという明確な線引きがなされたのです。
5. 大卒留学生の採用:「研修」なら技人国でもOK?
ホテル業界では、新入社員に対して「現場を知る」ために、フロント、ベル、ハウスキーピング、レストランをローテーションさせる研修(ジョブローテーション)を行うことが一般的です。
「技人国ビザの社員に、この研修をさせることはできないのか?」という疑問が生じます。
結論から言えば、「明確なキャリアプランに基づく、期間を定めた実務研修」であれば、技人国ビザでも現場業務(清掃等含む)が認められる可能性はあります。
- 期間の限定:入社後3ヶ月〜1年程度など、日本人社員と同様の研修期間であること。
- キャリアプランの明確化:研修終了後、確実に本部業務や専門的業務(技人国に該当する業務)に従事する計画があること。
- 合理性:その現場経験が、後の専門業務(例:宿泊プランの企画)に必要不可欠であると説明できること。
- 期間の定めがない:「とりあえず現場で」と配属され、いつ本部に行けるか分からない。
- 常態化:研修期間が終わっても、人手不足を理由に清掃やレストランのヘルプに入り続けている。
- 業務の偏り:1年の研修のうち、11ヶ月がベッドメイクである(専門業務との関連性が薄い)。
入管庁は今後、この「研修名目の単純労働」についても厳しくチェックする方針です。特にホテル業界は「研修」と称して長期間現場に留め置くケースが多いため、重点的な調査対象となる可能性があります。
そのため、大卒者であっても、現場でのマルチタスクな業務(清掃・配膳含む)を数年以上任せたいのであれば、まずは「特定技能」で採用することを強く推奨します。
6. 今回の「総合的対応策」で示されたリスク
今回決定された「総合的対応策」では、以下の施策が「速やかに実施する」として挙げられています。
資格該当性のない業務に従事させている疑いのある受入れ機関や派遣先における活動状況を調査し、審査の厳格な運用を行うとともに許可の在り方を検討する。
これは何を意味するか。
これまでは更新申請の際の「書類審査」がメインでしたが、今後は「実地調査(現場への立ち入り)」のリスクが格段に高まるということです。
- 更新不許可:次回のビザ更新時に、1日のタイムスケジュールの提出を求められ、「清掃」や「配膳」の割合が多いことが発覚し不許可となる。
- 不法就労助長罪:「通訳」として申請したのに、実際には「清掃員」として働かせていた場合、虚偽申請や資格外活動として、企業側も処罰の対象となる可能性がある。
7. おわりに:行政書士法人タッチのサポート
2026年は、ホテル・旅館業界における外国人雇用の「ルール」が再定義される年です。
「他のホテルもやっているから大丈夫」という横並びの意識は、企業のコンプライアンスリスクを最大化させます。
しかし、これはネガティブな話だけではありません。制度のすみわけが明確になったことで、「特定技能」を正しく活用すれば、ベッドメイクも配膳もフロントもこなす「マルチタスクな外国人材」を、コンプライアンスを遵守しながら堂々と雇用できるようになったとも言えます。
行政書士法人タッチでは、貴社の現状をヒアリングし、以下のサポートを行います。
- 既存社員のビザ診断:現在の業務内容で「技人国」の更新が可能か、それとも「特定技能」へ切り替えるべきかを診断します。
- 特定技能への移行手続き:複雑な特定技能への変更申請をフルサポートします。
- 採用戦略の再構築:新卒採用における、特定技能と技人国の適切な使い分けをアドバイスします。
入管の審査が厳格化される前に、早めの対策をご検討ください。
「うちは大丈夫かな?」と少しでも不安に思われたホテル・旅館の経営者様、人事担当者様は、ぜひ一度、行政書士法人タッチにご相談ください。









