外国人が日本で会社を設立し、経営活動を行うためには、「経営管理ビザ」の取得が必要です。「経営・管理ビザ」は、会社設立や営業許可の取得、事業計画の策定といった複数の要素を含むため、他の在留資格と比べて取得難易度が高いことが特徴です。
本記事では、取得要件や申請手続きの流れ、審査のポイントなどをわかりやすく解説します。
経営管理ビザとは
経営管理ビザ(在留資格「経営・管理」)は、外国人が日本で事業の経営や管理に従事するために必要な在留資格の一つです。
対象者:会社の経営者(社長、取締役など)や管理職(部長、支店長、工場長など)が対象となります。
経営管理ビザの要件
経営管理ビザを取得するためには、
- 「在留資格該当性があること」
- 「上陸許可基準に適合していること」
が求められます。
下記で詳細をみていきましょう。
要件① 在留資格該当性があること
経営管理ビザの許可を得るには、「在留資格該当性」が求められます。経営管理ビザの在留資格該当性とは、「本邦において貿易その他の事業の経営を行い又は当該事業の管理に従事する活動」です。
具体的には、下記のような人が該当します。
用語解説
本邦において貿易その他の事業の経営を行い | 創業社長など:日本において活動の基盤となる事業所等を開設し、貿易その他の事業の経営を開始して経営を行うこと
常務取締役など:日本において既に営まれている貿易その他の事業の経営に参画すること 雇われ社長など:日本において貿易その他の事業の経営を開始した者若しくは日本におけるこれらの事業の経営を行っている者に代わってその経営を行うこと |
当該事業の管理に従事する | 日本支店長など:日本において経営を開始してその経営を行っている事業又は経営に参画している事業の管理に従事すること
日本子会社の工場長など:日本において貿易その他の事業の経営を開始した者若しくは日本におけるこれらの事業の経営を行っている者に代わって当該事業の管理に従事すること |
そして、「経営・管理」の在留資格該当性については、次の点に留意が必要です。
ア 事業の経営又は管理に実質的に従事するものであること
イ 事業の継続性があること
上記のアイを充足していなければ、在留資格該当性があるとは認められません。
ア 事業の経営又は管理に実質的に従事するものであること
「実質的に」という文言がポイントです。具体的には、下記のような判断基準をもって入管は審査を行っております。
(ア)事業の経営に従事する活動には、事業の運営に関する重要事項の決定、業務の執行、監査の業務等に従事する代表取締役、取締役、監査役等の役員としての活動が該当し、事業の管理に従事する活動には、事業の管理の業務に従事する部長、工場長、支店長等の管理者としての活動が該当します。
申請人は、これらの経営や管理の業務に実質的に参画し、又は従事するものでなければならず、実際に行う業務の内容を確認して判断されます。
(イ)特に、申請人が新たに事業を開始しようとする場合について、申請時において、申請人は上記の業務には未だ参画等していないため、開始するとする事業の内容の具体性や、申請人が取得した株式や事業に投下している資金の出所等の事業の開始に至る経緯全般から、申請人が単に名ばかりの経営者でなく、実質的に当該事業の経営を行う者であるかどうかを判断します。また、既に営まれている事業に経営者や管理者として招へいされるような場合も同様であり、それが比較的小規模の事業であり申請人の他に事業の経営や管理に従事する者がいるときは、投資の割合や業務内容をそれらの者と比較することも必要です。
つまり、下記のようなケースでは、事業の経営又は管理に実質的に従事するとは判断されず(在留資格該当性がないと判断される)、経営管理ビザの許可を得ることはできません。
◆不動産事業を経営する場合で、賃貸収入で利益が上がっていたとしても、管理を管理会社に丸投げし、新たな物件の選定等も行わず、実質的に本人が経営管理活動を行っていないケース。
◆飲食店の経営をする場合で、スタッフを雇わずに本人がホールやキッチンの業務を行うケース。
など
イ 事業の継続性があること
入管が決定する在留期間の途中で事業が立ち行かなくなる等在留活動が途切れることが想定されるような場合は、「経営・管理」の在留資格に該当する活動を行うものとは認められません。この観点から、外国人が経営又は管理に従事する事業が安定して営まれるものと客観的に認められることが必要です。
具体的には、下記のような内容で事業が安定して営まれるものか否か、入管は判断をします。
新設会社の場合
…事業計画書及び損益計算書等で判断
既存会社の場合
…決算書等で判断(詳細は下記表を参照)
直近期末において剰余金がある場合又は剰余金も欠損金もない | 事業の継続性に問題なし |
直近期末において欠損金があるが直近期末において債務超過となっていない | 事業計画書及び予想収益を示した資料が必要 |
直近期末において欠損金があり債務超過であるが直近期前期末では債務超過となっていない | 中小企業診断士や公認会計士等が改善の見通しにつき評価した書面の提出が必要 |
直近期末において欠損金があり直近期末及び直近期前期末ともに債務超過 | 事業の継続性は認められない。(独自性のある技術やサービス、新しいビジネスモデル等を展開する新興企業は例外措置もあり) |
※直近期及び直近期前期において共に売上総利益がない場合
企業の主たる業務において、売上総利益がない、すなわち、売上高が売上原価を下回るということは、通常の企業活動を行っているものとは認められません。原則として事業の継続性がないと判断されます。
要件② 上陸許可基準に適合していること
経営管理ビザの許可を得るには、上記の「在留資格該当性」に加えて、「上陸許可基準に適合していること」が求められます。経営管理ビザの上陸許可基準に適合しているとは、下記の第1号から第3号の要件を充足していることを言います。
※写真はイメージ

第1号 | 申請に係る事業を営むための事業所が本邦に存在すること。ただし,当該事業が開始されていない場合にあっては,当該事業を営むための事業所として使用する施設が本邦に確保されていること。 |
第2号 | 申請に係る事業の規模が次のいずれかに該当していること。
イ その経営又は管理に従事する者以外に本邦に居住する2人以上の常勤の職員(法別表第一の上欄の在留資格をもって在留する者を除く。)が従事して営まれるものであること。 ロ 資本金の額又は出資の総額が500万円以上であること。 ハ イ又はロに準ずる規模であると認められるものであること。 |
第3号 | 申請人が事業の管理に従事しようとする場合は,事業の経営又は管理について3年以上の経験(大学院において経営又は管理に係る科目を専攻した期間を含む。)を有し,かつ,日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること。 |
第1号 事業所要件(上陸許可基準:経営管理ビザ)
上陸許可基準第1号の事業所要件を充足していると判断されるためには、具体的に下記の4つをクリアしている必要があります。
1 事業所の確保に適合していると認められること
事務所の種類 | 認められるか | 説明 |
---|---|---|
独立した事務所 | ○ | 独立した区画を賃貸し、また一般的にオフィスの契約期間は1年以上のケースが多いため問題ありません。 |
自宅兼事務所(マンション等) | × | 原則、自宅兼事務所では経営管理ビザの要件を満たしません。 |
自宅兼事務所(一戸建て) | △ | 1階が事務所、2階が住居のように明確に事務所と住居が区分けされていることが必要です。 |
レンタルオフィス | ○ | 独立したスペースが確保されていることが必要です。(個室のレンタルオフィス) |
バーチャルオフィス | × | バーチャルオフィスでは独立したスペースを確保できない為、要件を満たしません。 |
転借した事務所 | △ | 賃貸借契約書に転貸禁止条項が入っていれば不可となります。その為、転借した事務所を登録するにあたっては、賃貸契約書内容の確認が必須です。 |
屋台・キッチンカー | × | 事業が継続的に運営されるとは認められません。 |
2 賃貸借契約において、使用目的が「事業用」であること
3 賃貸借契約において、名義が「法人」であること
4 仕事の遂行に必要な機器が備わっていること(PC、電話機、プリンターなど)
第2号 事業規模要件(上陸許可基準:経営管理ビザ)
上陸許可基準第2号の事業規模要件を充足していると判断されるためには、事業の規模が下記のイまたはロに該当している必要があります。
イ 経営又は管理に従事する外国人以外に日本に居住する常勤の職員が2名以上勤務する事業であることを要件とするものであります。
(ただし、ここで言う常勤の職員は、永住者、日本人・永住者の配偶者等、定住者の在留資格の方又は日本人が対象となります。)
ロ 株式会社における資本金の額が500万円以上の事業であること
又は
合名会社、合資会社又は合同会社の出資の総額が500万円以上の事業であることを要件とするものであります。
※実務上、申請人自身が500万円以上を出資するケースが大半でありますが、あくまでも事業の規模に関する基準のため、必ずしも申請人自身が500万円以上を出資することが要件となっているわけではありません。
第3号 実務経験要件(上陸許可基準:経営管理ビザ)
第3号は、外国人が事業の管理に従事する場合に適用される基準を定めており、3年以上の事業の経営又は管理の実務経験を有すること及び日本人と同等額以上の報酬を受けて事業の管理に従事することが必要です。
※本邦又は外国の大学院において経営又は管理に係る科目を専攻して教育を受けた期間は、「実務経験」期間に算入されます。したがって、大学院において経営に係る科目を専攻して2年間の修士課程を修了した外国人は、事業の経営又は管理について1年の実務経験があれば3号の要件に適合します。また、大学院において経営又は管理に係る科目を専攻して3年の教育を受けた外国人は、実務経験がなくても3号の要件を満たします。
経営管理ビザの要件まとめ
つまり経営管理ビザを取得するためには、以下の要件を満たすことが必要です。
①在留資格該当性があること
・事業の経営又は管理に実質的に従事するものであること
経営や管理の業務に実質的に参画し、又は従事するものでなければならず、実際に行う業務の内容を確認して判断されます。
単に名ばかりの経営者または管理者は認められません。
(無議決権株式を取得して取締役に就任するにすぎないようなケース、実質管理者としての活動は行わないケースなど)
・事業の継続性があること
特に新設会社の場合は、事業計画書等で事業の安定継続性を申請人自ら立証する必要があります。
②上陸許可基準に適合していること
・申請に係る事業を営むための事業所が本邦に存在すること
独立した事務所であり、人及び設備を有して継続的に行われていることが求められます。
・事業の規模が次のいずれかに該当していること
ア 本邦に居住する2人以上の常勤の職員が従事する事業であること
ィ 資本金の額又は出資の総額が500万円以上であること
ウ 上記に準ずる規模であること
※申請人が事業の管理に従事しようとする場合は,事業の経営又は管理について3年以上の経験が必要です。
経営管理ビザ 申請から取得までの流れ(3つのケース別)
経営管理ビザの取得の流れは、本人が海外にいるか、日本に協力者がいるかで異なります。
本人の所在地 | ||
日本 | 海外 | |
日本に協力者*がいる? *協力者とは…日本で本人の代わりに会社設立の手続きを行ってくれる人のこと |
||
いる | いない | |
本人が日本にいる*場合 -変更申請- *中長期在留資格を保持して日本にいること |
本人が海外にいて協力者がいる場合 -認定申請- |
本人が海外にいて協力者がいない場合 -4ヶ月ビザを使うスキーム- |
ケース① 本人が日本にいる場合 変更申請
基本事項の 決定 |
会社の基本事項の決定します。 会社事務所を契約します。 |
会社設立 | ①定款の作成、定款認証 ②資本金の振込み ③法人設立登記 |
各種届出 | 会社の設立手続完了後、役所等への各種届出を行います。 役所等…税務署、都道府県税事務所、市町村、年金事務所、労働基準監督署、ハローワーク等 |
営業許可等 許認可 |
許認可が必要な事業を行う場合は行政機関に対して手続きを行います。 許認可が必要な主なビジネス… 飲食業、不動産業、製造業、運送業 ホテル・旅館業、建設業等 |
入管へ 在留資格申請 |
必要書類を収集し入管へ申請します。経営管理ビザを取得するためには、申請段階で事業計画書、損益計画書、申請理由書等の作成が必要です。 |
在留カード 受取り |
審査完了後、入管で在留カードを取得します。 |
ケース② 本人が海外にいて協力者がいる場合 認定申請
基本事項の 決定 |
会社の基本事項の決定します。 会社事務所を契約します。※協力者が契約します。 |
会社設立 | ①定款の作成、定款認証 ②資本金の振込み ※協力者の口座に振込み ③法人設立登記 |
各種届出 | 会社の設立手続完了後、役所等への各種届出を行います。 ※協力者が届出を行います。 |
営業許可等 許認可 |
許認可が必要な事業を行う場合は行政機関に対して手続きを行います。 |
入管へ 在留資格申請 |
必要書類を収集し入管へ申請します。経営管理ビザを取得するためには、申請段階で事業計画書、損益計画書、申請理由書等の作成が必要です。 |
ビザ発給 入国 |
在留資格認定申請書交付後、現地大使館でビザ発給を受け、日本に入国します。 |
ケース③ 本人が海外にいて協力者がいない場合 -認定申請-
本人が海外にいて、日本国内に協力者がいない場合は、4ヶ月の経営管理ビザを使い、まず本人が来日して日本に住所を定めてから諸手続きを行う方法で進めます。
4ヶ月ビザとは…「在留期間4ヶ月」の経営管理ビザ
会社の設立登記がなされていなくても、会社設立がほぼ確実に見込まれることが確認できた場合には、4ヶ月間の在留を認めるものです。
短期滞在との違い…短期滞在ビザ(90日)で在留しても、住民登録ができません。
日本国内に住所がなければ…
・日本の金融機関で口座開設できない。 | ⇒ | 会社設立ができない |
・事務所の賃貸借契約を結ぶことも困難 |
⇒実質、日本に協力者がいなければ経営管理ビザが取得できない。
このような厳しい条件を緩和し、外国人の日本での起業を促すために設けられた制度がこの「4ヶ月ビザ」です。
経営管理ビザ4か月の詳細ついては、下記をご参照ください。https://touch.or.jp/keiei/4months-visa/
本人が海外にいて協力者がいない場合の具体的な進め方は下記の通りです。
基本事項の決定 | 会社の基本事項を決定します。 |
事務所の 候補先選定 |
会社の事務所となる候補先を決定します。 ※契約は入国後で構いません。 |
書類収集 事業計画策定 |
入管申請にあたって必要な書類の収集・作成を行い事業計画を策定します。 |
入管へ 在留資格申請 |
入管へ4か月間の在留資格認定証明書交付申請を行います。 |
ビザ発給入国 | 在留資格認定申請書交付後、現地大使館でビザ発給を受け、4か月ビザで日本に入国します。 |
住民登録 | 市町村の役所に住民登録を行う ⇒住民票が作成される |
事業開始準備 | 会社設立・経営のために必要な諸手続きを行う ・印鑑証明書の作成 ・事務所の契約 ・日本の銀行において申請者本人の銀行口座開設 ・資本金の振込みを行い、会社設立登記 ・会社の銀行口座開設 ・税務署へ法人設立届の他、届出書類の提出 ・営業許可が必要な業種の場合、営業許可の取得 |
入管へ 在留資申請 |
入管へ経営管理ビザの「在留期間更新許可申請」を行います。 通常、1年の在留期間が付与されます。 |
行政書士がサポートできること
経営管理ビザの申請にあたっては、しっかり審査のポイントを押さえて申請することが重要です。
「経営・管理ビザ」は、会社設立や営業許可の取得、事業計画の策定といった複数の要素を含むため、他の在留資格と比べて取得難易度が高いことが特徴です。
特に事業計画書については、出入国在留管理局を納得させるだけの説得力のあるものを用意しなければなりません。ビザ申請や会社設立手続きについてご不安な点があれば、まずは専門性の高い行政書士にご相談することを推奨いたします。