当事務所はビザ関係を専門としていますが、経営・管理ビザを取得したいと相談に来る外国人の方からは、「経営・管理ビザを取得する上で事業の経営・事業の管理についての実務経験は必要ですか?」という質問をよく頂きます。
以前(2025年10月以前)は、「自分で出資して社長になるなら経験は不要」というルールがありましたが、2025年10月16日の上陸基準省令の改正により、この常識は覆されました。
このページでは、法改正後の最新基準に基づき、経営・管理ビザを取得する際の実務経験の必要性と、現在注目されている「スタートアップビザ」の活用について解説してゆきます。
経営管理ビザにおける実務経験の厳格化
2025年10月の改正により、日本で会社を経営する場合(事業の経営)であっても、以下のいずれかの要件を満たすことが必須となりました。
- 経営・管理について3年以上の実務経験があること
- 経営・管理またはその事業に関連する分野の修士(Master)以上の学位を持っていること
つまり、これまでのように「資金さえあれば、誰でも日本で起業してビザが取れる」というルートは事実上閉ざされました。「3年以上の経験」または「修士以上の学位」のどちらかがなければ、許可されません。
なぜ要件が厳しくなったのか?(厳格化の理由)
今回の改正で実務経験(または修士号)が必須となった背景には、大きく分けて2つの理由があります。
1.経営の実態と安定性の確保
「経営の経験も知識も全くない外国人が、いきなり外国である日本に来て会社を経営する」というのは、客観的に見て非常に不自然であり、事業継続の観点からも疑問符がつきます。
過去には、経験不足から事業が立ち行かなくなったり、あるいはビザ目的だけのペーパーカンパニーであったりするケースが散見されました。
そのため、「日本でビジネスを継続できるだけの確かな能力」が許可の前提条件とされました。
2.投資家(外国人経営者)の保護
これは非常に重要な点ですが、要件の厳格化は、皆さん自身の大切な資産を守るためでもあります。
今回の改正で、資本金要件も原則3,000万円以上に引き上げられました。
もし、経営経験やノウハウがないまま、いきなり3,000万円もの大金を投じて起業し、経営不振で倒産してしまえば、せっかく貯めた資産を無駄に失うことになります。
「十分な経験や知識を持ってから起業する」というルールは、無謀な投資による失敗を防ぎ、皆さんが日本で成功するためのセーフティネットの意味合いも持っているのです。
解決策としての「スタートアップビザ」活用
「3年以上の実務経験」や「修士号」がない場合の選択肢として、現在「スタートアップビザ(特定活動)」を経由する方法が注目されています。
これは日本の自治体(東京都や福岡市など)の支援を受けて起業準備を行う制度です。
このスタートアップビザを利用するためには、以下の重要な要件を理解しておく必要があります。
1. 最低1年の経営経験が必要です
スタートアップビザは、通常の「3年」という高いハードルに対し、ある程度の実績があればチャレンジできる制度ですが、「経験ゼロ」の状態で申請することはできません。
申請には、少なくとも1年以上の会社経営経験(またはそれに準ずる経験)が必要となります。全くの未経験者ではなく、ある程度の基礎がある方を対象とした制度です。
2. 対象となる事業が限定されています
スタートアップビザは、単に会社を作れば良いというものではありません。「自治体が指定した地域の経済に寄与できる事業」(例:革新的な技術、海外展開の促進など)である必要があります。
一般的な飲食店や転売事業などでは、対象外となるケースも多くあるため、事前の確認が不可欠です。
3. 「王道ルート」としての活用
上記の条件(1年程度の経験、適した事業内容)を満たす方にとって、スタートアップビザは非常に有効な「新たな王道ルート」となります。
- 日本での活動実績が評価される:自治体の支援を受けながら日本で準備活動を行うことで、その期間が確かな実績として評価されます。
- スムーズな移行:スタートアップビザでの活動(最長2年〜)を経て事業が軌道に乗る見込みが立てば、経営・管理ビザへの変更が認められる可能性が高まります。
まとめ
2025年の改正により、経営・管理ビザの取得には「3年以上の実務経験」または「修士以上の学位」が必須となり、審査は非常に厳格化されました。
これは不正防止だけでなく、皆さんの大切な資本金(3,000万円等)を失敗のリスクから守るための措置でもあります。
要件を満たさない場合の選択肢として「スタートアップビザ」がありますが、これにも「最低1年の経験が必要」「事業内容の制限」といった条件があります。
ご自身の事業がスタートアップビザの対象になるかどうか、またご自身の経歴で申請が可能かどうかの判断には専門的な知識が不可欠です。
確実なビザ取得を目指すためにも、自己判断せず、ぜひビザ専門の行政書士にご相談ください。









