留学生が大学等を卒業した後で日本で起業するには、経営管理ビザが必要です。経営管理ビザは学歴が問われないため、学生起業した方や退学した方でも取得が目指せます。
ただ、留学生が経営管理ビザを取得する際は、事業計画の審査が厳しくなるなどハードルが高いので、入念な準備が必要です。成功のための秘訣について解説します。
- 留学生が日本で起業するには何をすべきか?
- 経営管理ビザの要件と取得方法
- 留学生が経営管理ビザ取得を目指す場合の特有の問題点
- 会社設立から経営管理ビザ取得までの流れ
- 事業計画書の作成のポイントと審査で重要視される点
経営管理ビザとは
留学生が日本で起業するなら、経営管理ビザへの変更が必要になります。経営管理ビザとは何か解説します。
経営管理ビザの概要と目的
経営管理ビザとは、在留資格「経営・管理」のことで、日本において貿易その他の事業の経営又は、事業の管理に従事する活動を行う外国人に与えられます。
外国人の方が日本の会社で従業員として働くだけでしたら、他の在留資格でも構いませんが、会社の取締役等の役員になった場合や、自分で会社を設立する場合は、在留資格「経営・管理」への変更が必要です。
留学生が対象となるケースの具体例
留学生の方が大学等を卒業後も日本で働き続ける場合は、在留資格「技術・人文知識・国際業務」などの就労ビザを取得するのが一般的です。
ただ、留学生の中には、卒業後、自分で会社を作るなどの起業を検討している方もいるでしょう。
または、在学中でも、起業を志す方もいるかもしれません。
そうした場合は、就労ビザではなく、経営管理ビザが必要になります。
他の在留資格との違い
就労ビザなど他の在留資格と経営管理ビザの大きな違いは、働くときの立場です。
就労ビザは、会社などで従業員の立場で働く場合の在留資格です。一定の学歴や実務経験などを申請者自身が有していることや日本人と同等の報酬を受けることなどが要件になります。
一方、経営管理ビザは、経営者側の立場で働く場合に必要な在留資格です。自分で会社を設立した場合はもちろんですが、勤めている会社で昇進し取締役等の経営者側になった場合も経営管理ビザが必要になります。
申請者自身の学歴は問いませんが、申請者が経営する会社の事業所が日本国内に実在しているのか、事業と言える規模なのかといったように、会社の経営実態が主な審査対象になります。
留学生から経営管理ビザへの変更要件
留学生の方でも経営管理ビザへ変更する際は要件が緩和されるわけではなく、在留資格「経営・管理」の要件を満たすことが求められます。
経営管理ビザで重要なのは、事業の規模、経営する事業の実態等です。
日本国内の事業所確保
事業を営むための事業所が日本に存在していなければなりません。
一般的なオフィスを借りている場合は問題ありませんが、バーチャルオフィスでは事業所と言えないので注意してください。
また、現在住んでいる自宅を事業所とすることも、基本的には認められにくいのが実情です。
一定の規模の事業を営む
事業の規模は一定以上であることが求められます。
具体的には、資本金または出資の総額が500万円以上であるか、もしくは2人以上の常勤職員が従事することが必要です。資本金は必ずしも申請人本人が用意しなくて大丈夫ですが、資本金の出所については厳しくチェックされます。そのため、資金調達の経緯について出入国管理局に合理的な説明をする必要があります。
事業の安定性・継続性の証明
経営管理ビザで最も大切なのが、事業が安定していて、継続できるものであるかどうかです。
・新規の会社の場合は、事業計画書が審査の対象になります。事業計画書の内容からして実現可能なものなのかが審査されます。
・既存の会社の場合は、直近の決算において赤字・債務超過に陥っていないかといった点が審査されます。赤字の場合は、事業計画書を作成し、今後は安定継続的に事業を運営できることを証明しましょう。債務超過の場合は、中小企業診断士又は公認会計士が作成した企業の評価書が必要になります。
実質的な経営参画の必要性
経営管理ビザは、申請者自身が実質的に会社の経営や管理の業務に参画していることが求められます。
実質的な経営参画とは、次のような活動を行っていることを意味します。
- 事業の運営に関する重要事項の決定を行っていること。
- 事業の執行の業務に従事していること。
- 事業の監査業務に従事していること。
取締役等の役員に就任していても、こうした活動を全く行っていない場合、つまり単に名ばかりの経営者・役員は、経営管理ビザを取得することはできません。
事業者としての義務を履行していること
事業の運営は適正に行うことが求められます。
具体的には、
- 法人税や所得税などを適正に納めているか
- 健康保険や厚生年金保険に加入し保険料を適切に納付しているか
- その他、法令を遵守しているか
といった点が審査されます。
学歴要件(大学卒業は必須ではない)
経営管理ビザでは申請者本人の学歴は要件となっていません。
そのため、留学生の方であれば、在学中に起業することで、卒業前に経営管理ビザを取得することも可能です。また、留学先の大学等を卒業せず、中退した場合でも経営管理ビザを取得できます。
ただし、申請人が事業の管理に従事しようとする場合は、事業の経営又は管理について3年以上の経験(大学院において経営又は管理に係る科目を専攻した期間を含む。)を有し、かつ、日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けることが条件となっています。
留学生特有の注意点・審査ポイント
留学生は一般的に企業経営の実務経験がないため、「この人では事業を安定継続的に運営するのは難しいのでは?」という観点で、経営管理ビザの審査が厳しくなりがちです。
また、経営管理ビザは学歴不要ですが、大学をやめて起業する場合は合理的な説明ができるかが問われます。
詳しく見ていきましょう。
資金の出所証明と送金記録の準備
会社設立後、経営管理ビザを取得するには、500万円以上の資本金(出資の総額)または2人以上の常勤の職員が必要になります。スタート時から常勤の職員を2名以上雇用するのは困難(人件費がかかりすぎる等)のため、ほとんどの方が資本金500万円の会社を設立し、経営管理ビザの申請を行います。
この500万円以上の資本金がどこから出たお金なのかも審査の対象になります。
留学生が500万円以上の資本金を自分で調達することは一般的ではありません。
親、親族、友人などにお金を出してもらうことも多いでしょう。
この場合は、銀行口座へ送金する形にし、資金を出した人との間で金銭消費貸借契約を締結しましょう。
そして、銀行口座への送金記録と金銭消費貸借契約書によって、出所を証明することになります。
なお、銀行口座へ送金ではなく、100万円以上の現金を日本国内に持ち込んだ場合は、税関への申告が必要になります。その申告を行ったことの証明書が必要になります。
また、お金を借りたのではなく、貰ったとか贈与された場合は、贈与税がかかります。この場合も贈与契約書を作成したうえで、贈与税を納付したことを示さなければなりません。
資格外活動許可とアルバイト時間の制限
留学生が自分で働いて500万円以上の資本金の原資を貯めたというケースもあると思います。
この場合は、次の点に注意してください。
- 在留資格「留学」の留学生がアルバイトをするには、資格外活動許可が必要。
- 労働時間は1週間で28時間以内に制限されている。
- 風俗営業等のお店で働くことは認められていない。
- 年収103万円を超えた場合は所得税の納税が必要になる。
こうしたルールを守ったうえで、アルバイトによって、500万円以上の資本金を貯めたのであれば、問題ありませんのでその旨を説明するだけで足ります。
ルールを守っていなかった場合は、経営管理ビザの取得が難しくなる可能性があります。
オーバーワークや違法就労のリスク
日本での起業を志す留学生の中には、学生時代にたくさんアルバイトをして、500万円以上の資本金の原資を貯めようと考えるかもしれません。
しかし、在留資格「留学」でアルバイトをするためには、資格外活動許可が必要ですし、1週間で28時間以内という制限があります。
1週間で28時間以内という制限を超えてオーバーワークしてしまった場合は、違法就労となってしまうので注意しましょう。
なお、1週間で28時間以内という制限はアルバイト先ごとに計算するのではありません。掛け持ちでアルバイトをしている場合は、すべてのアルバイトを合わせた時間であることに注意してください。
オーバーワークや違法就労を行っていたことが発覚した場合は、経営管理ビザの取得が難しくなる可能性があります。
卒業前後のスケジュール管理と在留資格切替タイミング
在留資格「留学」の有効期限が切れた後も滞在を続けている場合は、オーバーステイ(不法残留)となってしまいます。
オーバーステイ(不法残留)の場合は、退去強制を受けたり、3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金という刑事罰の対象になるリスクがあります。
在留資格「経営・管理」は、一般的な就労資格と比べても審査が厳しい上、審査期間も長期化しがちです。
大学卒業後に在留資格「経営・管理」に切り替える場合は、早めに準備を開始することが大切です。
中退・除籍・自主退学の場合の対応
在留資格「留学」で日本に滞在している場合は、日本の大学等を卒業するのが原則です。卒業後、在留資格「経営・管理」を取得する場合でも、一般的な留学生は企業経営の実務経験がないことから、「この人では事業を安定継続的に運営するのは難しいのでは?」の観点で、経営管理ビザの審査が厳しいのが実情です。
日本の大学等を中退、除籍、自主退学した後で、在留資格「経営・管理」に切り替える場合は、なおさら審査は厳格になります。
一般的な就労ビザである在留資格「技術・人文知識・国際業務」を取得するには大学卒業以上の学歴が必要になります。
一方、在留資格「経営・管理」には学歴要件はありません。
そのため、日本の大学等を卒業できなかった留学生が、引き続き日本に滞在する目的で、在留資格「経営・管理」の取得を目指すケースも考えられます。
こうした事情もあるため、中退、除籍、自主退学からの在留資格「経営・管理」の取得を目指すケースでは審査が厳しくなるわけです。
日本の大学等を中退、除籍、自主退学した合理的な理由の説明を求められるので、その理由を説明できるようにすることが大切です。
申請手続きの流れ
留学生が会社を設立し経営管理ビザを取得するまでの流れを解説します。
事業計画書を作成する
会社設立や経営管理ビザ取得に動く前に、まず、起業のビジョンを明確にしましょう。
大学や商工会議所などが主催する創業セミナーで起業方法や事業計画書の作成方法を学び、起業に向けた準備を進めてください。
会社設立を行う
会社設立の手続き自体は株式会社では3週間、合同会社では2週間で可能です。
会社設立のおおよその流れは次のとおりです。
- 事前準備
- 定款の作成・認証
- 資本金の払い込み
- 会社設立登記
事前準備の段階では、会社の概要等を決めます。事業計画書を作成していれば新たに決めることはありません。
最低限決めることは次の項目です。
- 会社の目的
- 商号
- 本店所在地
- 資本金の額
- 発行する株式について
定款の作成・認証では、定款の原案を作成したうえで、公証人役場で公証人に認証してもらいます。
資本金の払い込みでは、発起人の口座を開設し、その口座に資本金相当額(500万円以上)を振込み、その履歴をコピーする形で作成します。
会社設立登記は、本店所在地の法務局で行います。
会社設立登記申請書を作成し、様々な添付書類を用意します。
なお、登記申請の際は登録免許税がかかります。
原則として株式会社の場合は15万円、合同会社の場合は6万円かかります。
会社設立後の各種届出
会社設立後は、様々な届出が必要になります。主にやるべきことは次のとおりです。
- 税務署:法人設立届出書(会社設立日から2ヶ月以内)
- 都道府県税事務所・市町村役場:法人設立届出書
- 年金事務所:健康保険・厚生年金保険新規適用届
- 労働基準監督署:労働保険保険関係成立届等(従業員を雇った日の翌日から10日以内)
- ハローワーク:雇用保険被保険者資格届等(従業員を雇った日の翌日から10日以内)
在留資格「経営・管理」の申請
会社を設立した後で経営管理ビザの申請に進みます。
必要書類の概要は次のとおりです。なお、必要書類はケースごとに大きく異なるので、必ず、出入国在留管理局や専門の行政書士にご相談ください。
- 在留資格認定証明書交付申請書または在留資格変更許可申請書
- 写真
- 認証済みの定款の写し
- 履歴事項全部証明書
- 同意書の写し
- 選任及び本店所在地決議書の写し
- 設立時代表取締役選定決議書の写し
- 就任承諾書の写し
- 払込証明書の写し
- 法人設立届出書の写し
- 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書の写し
- 給与支払事務所等の開設届出書の写し
- 青色申告の承認申請書の写し
- 役員報酬を決議した株主総会の議事録の写し
- 取締役に関する理由書
- 事業計画書
- 業務委託契約書
- 事務所の賃貸借契約書
- 出資金の形成過程に関する資料 など
なお、経営管理ビザの取得のためには、3ヶ月以上かかるものとお考えください。
その点を見越して、それよりも前から準備を始めることが大切です。
事業計画書の作成ポイント
留学生が在留資格「経営・管理」の申請を行う場合は、事業計画書が特に重点的に審査されます。
事業計画書に記載する項目は大きく次の4種類に分けられます。
- 事業概要
- 事業内容
- 数値計画
- 実行計画
一つ一つ確認しましょう。
事業概要
- 企業の概要
- 経営者の経歴
- 起業の動機
- ビジョン・目標
の4項目を記載します。
この中で大切なのは、起業の動機やビジョン・目標です。
留学時に起業を思い立ったなら、どのような出来事がきっかけだったのか具体的なエピソードを書きましょう。
ビジョン・目標は、起業後に成し遂げたいこと、売上高の目標を書きます。
事業内容
- 事業コンセプト
- 現状分析等
- 販売・仕入計画
- 実施体制・人員計画
の4項目を記載します。
事業計画書の審査で最も重視される項目です。
現状分析等では、市場規模や競合の状況について、どの程度分析できているかがチェックされます。
そのうえで、商品やサービスの提供方法等について、具体的な計画性があるかどうかがポイントです。
数値計画
- 投資・調達計画
- 損益計画
の2項目を記載します。概ね3年目までに必要な資金、仕入額、売上高、利益、返済額などの数字を書き出します。
希望的観測に基づく数字ではなく、実現可能なものであるかどうかがチェックされます。
実行計画
起業後、おおよそ、3年先までの経営のスケジュールを記載します。
3年先の目標に向けてどのようなステップで進めていく予定なのかを明確に書きます。
事業計画書で審査官が重視する点
出入国在留管理局の審査官が事業計画書を作成する際に特に重視する点は、経営する事業の安定性と継続性です。
特に、留学生の場合は、これまで企業を経営した経験がない場合がほとんどなので、審査官としても留学生のビジネスに対して懸念を覚えることが少なくありません。
そうした懸念を払拭できるだけの説得力のある事業計画書を作成することが大切です。
成功事例・失敗事例
留学生が経営管理ビザ取得に成功する例と失敗する例について解説します。
実際に経営管理ビザ取得に成功した留学生のケース
経営管理ビザ取得には時間がかかります。成功する留学生は起業を志した時から経営管理ビザについて調べて準備を始めていることが多いです。
資金の出所は厳しく審査されることから、説明できるように特に気を配っています。
また、創業セミナーに参加するなどして、起業のプランを早いうちから考え始めています。
事業計画書も早くから作り始め、何度も見直して、より実現性の高い事業計画を立てています。
このように、早めに準備を始めることが留学生から経営管理ビザ取得を成功させるためのポイントになります。
失敗した場合の主な原因と対策
経営管理ビザ取得に失敗してしまう留学生は、早めに準備を始めていないことが多いようです。
卒業間際になってから、起業すると言い出して、準備を始めても手遅れになることも少なくありません。
また、起業を志していてもアルバイトを掛け持ちするなどしてオーバーワークや違法就労の状態で自己資金を貯めていた場合は、経営管理ビザ申請で不利になります。
そして、事業計画書の作り込みが甘く、審査官を納得させられる内容になっていないことも失敗の原因の一つです。
やはり、起業を志したら経営管理ビザについて調べて、早めに準備を始めることが大切です。
当事務所のサポート・強み
行政書士法人タッチは、様々な立場の方の経営管理ビザ取得を支援してきました。
経営管理ビザ取得のために必要なことは、それぞれの事情により大きく異なります。申請書類も100枚以上と膨大な数になることも少なくありません。
留学生の場合はこの記事で紹介したように、特有の問題点があり、解決策もそれぞれ異なります。
行政書士法人タッチは、留学生の方一人ひとりに合わせたきめ細かなサポートを提供していきます。
無料相談やサポートサービスの案内
留学生の方で経営管理ビザ取得や日本での起業を目指している方は、行政書士法人タッチにご相談ください。
手続きの流れや経営管理ビザ取得の可能性について相談することができます。
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