日本で事業を立ち上げ、経営活動を行う外国人が取得する「経営・管理ビザ」。このビザを取得する際、会社の形態として「株式会社」を選ぶのが一般的ですが、「合同会社」という選択肢もあります。
合同会社は、株式会社に比べて設立や運営が手軽である一方、まだ知名度が低いなどの側面もあります。
このページでは、合同会社を設立して経営・管理ビザを取得する際の具体的な情報について解説します。
経営・管理ビザと会社形態
「経営・管理」ビザは、日本国内で事業の運営を行うために在留する外国人が取得する就労ビザの一種です。
最も一般的な取得方法は、日本で会社を設立し、その役員(代表取締役や代表社員など)に就任して、会社経営の活動を行うケースです。
この際、設立する会社の形態について、「株式会社でなくてはならない」といった法律上の縛りは存在しません。したがって、合同会社(Godo Kaisha, GK)を設立した場合でも、経営・管理ビザは問題なく取得できます。
日本国内の会社の大多数は株式会社ですが、だからといって合同会社が審査で不利に扱われるといったことはありません。
ただし、株式会社と合同会社では、適用される法律(会社法)上のルールが異なります。それぞれにメリット・デメリットがあるため、ビザを取得したいと考える方の個別の事情(事業内容、資金計画、将来の展望など)に応じて、よりメリットが大きい方を選択することが賢明です。
合同会社(日本版LLC)とは
合同会社は、2005年の会社法改正によって創設された、比較的新しい形態の会社です。
その特徴から、主に少人数での事業運営に適しているとされています。この制度はアメリカのLLC (Limited Liability Company) をモデルにしているため、「日本版LLC」と呼ばれることもあります。
ただし、注意点として、税務上の扱いなど、アメリカのLLCと全く同じというわけではありません。
「少人数での運営に適している」と聞くと、小規模なビジネス専用のように思われるかもしれませんが、決して大きいビジネスに不向きというわけではありません。事実として、GoogleやAmazonの日本法人も、合同会社の形態を採用しています。
合同会社と株式会社の徹底比較
簡単に言えば、「合同会社は株式会社よりも、安く・手軽に運営できるが、事業の拡大はしにくい」という特徴があります。
| 株式会社 | 合同会社 | |
|---|---|---|
| 設立時の登録免許税 | 150,000円 | 60,000円 |
| 定款の認証 | 義務
認証手数料50,000円 収入印紙代40,000円 |
不要 |
| 経営陣の名称 | 取締役 | 社員 |
| 代表者 | 代表取締役 | 代表社員 |
| 会社の所有者(出資者) | 株主
(会社の所有と経営の分離) |
社員
(会社の所有者=経営者) |
| 意思決定 | 株式(出資)の割合に応じる | 出資の割合によらず平等 |
| 役員の任期 | 2~10年(パターンによる) | なし |
| 決算の報告 | 義務 | 不要 |
| 法人税率 | 同じ | 同じ |
| 社会保険の加入 | 義務 | 義務 |
| 社会的信用 | 高い | 株式会社より低い場合あり |
1. 設立時のコスト
合同会社は、設立時の初期費用を抑えられるメリットがあります。
定款の認証
株式会社を設立する場合、公証役場で「定款の認証」を受けることが義務付けられています。これには認証手数料(50,000円)や、紙の定款の場合は収入印紙代(40,000円)がかかります(行政書士等が電子認証を代理する場合は印紙代不要)。
一方、合同会社は、この定款認証が不要です。その分、初期費用を安く抑えることができます。
登録免許税
会社設立登記の際に法務局へ納める税金です。以前のように500万円の少ない資本金で経営管理ビザを取れる時は合同会社の方が安価でしたが、最低資本金を3000万円に引き上げた後、株式会社も合同会社も同じ金額(資本金の0.7%)になります。
例えば、資本金が3,000万円の場合、株式会社も合同会社も21万円となり、税額は同じになります。
2. 運営のコストと自由度
設立後(ランニングコスト)や運営の柔軟性にも違いがあります。
役員の任期
株式会社の取締役には任期(通常2年~10年)があり、任期満了ごとに役員変更の登記(法務局への申請)が必要です。この登記には費用(登録免許税)がかかります。
対照的に、合同会社には役員の任期がありません。そのため、任期ごとの登記費用がかからず、ランニングコストを抑えることができます。
決算の公表義務
株式会社は、毎年の決算を公告する義務(決算の報告義務)があります。
合同会社には、この決算の公表義務がありません。
運営の自由度
合同会社は、会社機関の設計(例:取締役会の設置など)について、会社法上の規制が株式会社に比べて少なくなっています。これにより、手軽で自由度の高い会社運営が可能です。
3. 会社の所有と経営・意思決定
会社の「所有者」と「経営者」の扱いや、物事の決め方が大きく異なります。
呼称と仕組み
株式会社では、経営陣を「取締役」(代表者は「代表取締役」)、出資者(会社の所有者)を「株主」と呼びます。会社の所有と経営が分離可能です。
合同会社では、経営陣も出資者も「社員」(代表者は「代表社員」)と呼びます。原則として、会社の所有者(出資者)=経営者 となります。
意思決定
株式会社では、出資(株式)の割合に応じて議決権(発言力)が強くなります。
一方、合同会社は、出資の割合によらず、原則として社員1人1票で平等に意思決定を行います。
4. 事業拡大(資金調達)
合同会社は、事業拡大において株式会社に劣る側面があります。
株式会社は「株式」を発行することで、広く一般の投資家から一度に多くの資金を調達する手段(IPO:新規株式公開など)があります。
合同会社には、このような株式に相当する資金調達手段がありません。そのため、株式会社に比べて事業の拡大はしにくいと言えます。
5. 税務・社会保険
経営・管理ビザの取得や会社運営において重要な税金と社会保険については、両者に違いはありません。
- 法人税率:同じ
- 社会保険の加入:どちらも義務
この点が、モデルとなったアメリカのLLC(出資者個人に課税される「パススルー課税」を選択できる場合がある)と日本版LLC(合同会社)との大きな違いです。
6. 社会的信用
合同会社は比較的新しい会社形態であるため、日本での知名度がまだ低いのが現状です。
そのため、取引先や金融機関によっては、株式会社に比べて社会的な信用度が低く見られてしまう場合があります。
合同会社設立から経営・管理ビザ取得までの流れ
ここでは、私達行政書士法人タッチに依頼した場合の、合同会社設立から経営・管理ビザ取得までの具体的な流れと所要日数を示します。
フェーズ1:会社設立の準備(約1~2週間)
①まず、お客様(ビザ申請者)と行政書士が面談を行います。
②次に、お客様には会社の基本事項を決める「ヒアリングシート」を作成していただきます。具体的には、商号(会社名)、本店(会社の住所)、事業目的、資本金、設立時の役員(社員)、事業年度などを決定します。
③並行して、行政書士が商号や事業目的の調査を行います。
④お客様には会社印鑑の作成いただきます。
⑤役員(社員)となる方の印鑑証明書・実印の準備を進めていただきます。
フェーズ2:会社設立手続き(約3~4週間)
⑥準備が整ったら、行政書士が定款などの必要書類を作成します(5日程度)。
⑦作成した書類をお客様とやり取りし、捺印などをいただきます。
⑧その後、お客様に所定の口座へ出資金(資本金)を払い込んでいただきます。
⑨全ての書類と出資金の払込みが完了したら、司法書士が法務局へ会社設立の登記申請を行います。
⑩法務局での審査には約2週間程度かかり、これが完了すると、法的に会社が設立されたことになります。
フェーズ3:経営・管理ビザ申請(約2.5~3.5か月)
会社が設立されたら、次はいよいよ経営・管理ビザの申請準備です。
⑪お客様と行政書士で、ビザ申請に必要な書類(会社の登記簿謄本、事務所の賃貸借契約書など)の収集を行います。
⑫行政書士は、収集した書類に基づき、入国管理局(入管)への申請書類、そして審査の鍵となる「事業計画書」の作成を行います(2~3週間程度)。
⑬書類がすべて完成したら、行政書士が入管にビザの申請を行います。
⑭申請後、入管での審査には約2~3か月かかります。
⑮審査が無事に完了し、許可が下りると、在留カードが発行され、晴れて経営・管理ビザの取得となります。
おわりに
ご紹介した通り、合同会社は株式会社よりも手軽に設立・運営できるメリットがあります。
しかし、ビザ取得までのプロセスは長く、会社の設立準備を始めてから経営・管理ビザを取得するまで、すべてがスムーズに進んだとしても合計で4~5か月ほどかかるのが一般的です。
また、会社設立登記(法務局)やビザ申請(入管)など、作成する書類や提出先も多岐にわたります。特に事業計画書の作成は専門的な知識が必要であり、不慣れな場合はどうすればよいか途方に暮れてしまうこともあるかもしれません。
経営・管理ビザの取得を会社設立の段階から始めようと考えている方は、ミスのないスムーズな手続きのためにも、一度、経験豊富な専門家へ相談することをおすすめします。








