「日本に拠点を作りたいが、子会社・支店・駐在員事務所などの形態があり、自分の場合にどれを選べばよいのか分からない」――海外企業の経営者・ご担当者から、進出のごく初期に最も多くいただくご相談のひとつです。3つの形態は、できること・できないこと、責任のおよぶ範囲、税務、銀行口座、在留資格(ビザ)との相性まで大きく異なります。そして形態の選択は進出の「最初の分岐点」であり、ここでの判断がその後の登記・ビザ・口座・税務のすべてに影響します。本記事では、3形態を比較で整理し、「自社のケースはどの方向か」を見極められるよう、国際業務を専門とする行政書士がやさしく解説します。
この記事でわかること
- 子会社・支店・駐在員事務所の違いを一覧でつかめる比較早見表
- 3形態それぞれの「できること・できないこと」と、日本進出で注意したい点
- 「日本で売上を立てるか」「誰が来日するか」の2軸で見極める簡単な診断
- 「あとで形態を変える」ことのコストと、最初の見極めが重要な理由
形態選定は、進出の「最初の分岐点」
日本進出の手続きは、大きく ①形態選定 ②会社設立 ③許認可 ④在留資格(ビザ)⑤税務・労務 という5つの領域に分かれます(→詳しくは以下の記事をご覧ください。>「進出の全体像」の記事)。その先頭にあるのが形態選定です。なぜ最初かというと、ここで選んだ形態が、後続のすべての領域の前提を決めてしまうからです。
たとえば「日本で売上を立てられるか」は形態で決まり、「法人名義の銀行口座を作れるか」も形態に左右されます。代表者や社員が日本で働くための在留資格の取りやすさも、形態と密接に関わります。つまり形態選定は単なる入口の手続きではなく、進出全体の設計図を左右する分岐点です。だからこそ、3形態の「できること・できないこと」を正しく理解したうえで選ぶ必要があります。
まず結論――3形態の比較早見表
細かな説明に入る前に、全体像を一枚でつかみましょう。次の表は、3形態を主要な比較軸で並べたものです。各項目の詳細は、このあとの節で順に解説します。
| 比較軸 | 駐在員事務所 | 支店 | 子会社(KK/GK) |
|---|---|---|---|
| 営業活動(販売・契約・売上) | 不可(準備活動のみ) | 可 | 可 |
| 登記 | 原則不要 | 外国会社の登記が必要 | 日本法人の設立登記が必要 |
| 法人格・責任 | 本社の一部 | 本社と同一人格(責任が本社に直結) | 別人格(責任は出資の範囲に限定) |
| 法人名義の銀行口座 | 原則不可(代表者個人名義) | 開設可(審査あり) | 開設可(審査あり) |
| 課税の考え方 | 原則課税なし(営業に踏み込むとPE課税の恐れ) | 国内事業所得が課税対象 | 日本法人として所得課税 |
| 在留資格との親和性 | 個別の見極めが必要 | 構成が複雑になりやすく個別検討 | 高い(経営・管理/企業内転勤と親和的) |
| 向いているケース | 市場調査・情報収集の段階 | 本社と一体で日本でも取引したい | 本格進出・本人経営・社員派遣 |
※KK=株式会社、GK=合同会社。課税・在留資格の具体的な判断は、それぞれ税理士・行政書士の領域です。上表は一般的な整理であり、個別事情により異なります。
駐在員事務所――「できること」と「できないこと」
駐在員事務所(Representative Office)は、登記が原則として不要で、3形態のなかで最も手軽に置ける拠点です。本格進出の前段階として、市場調査・情報収集・本社との連絡・広告宣伝といった準備的・補助的な活動を行うための拠点、と位置づけられます。
重要なのは、営業活動(販売・契約の締結・売上を立てること)はできないという点です。あくまで「準備」のための拠点であり、ここで取引そのものを行うことは想定されていません。また、法人名義の銀行口座も原則として開設できず、実務上は代表者個人の名義の口座で運営するのが通常です。本国の representative office と同じ感覚で「ここから事業を始められる」と考えると、想定どおりには進みません。
駐在員の在留資格については、企業内転勤などが候補となる場合もありますが、事務所の実体や活動内容によって判断が分かれやすい領域です。本記事では断定を避け、「個別の見極めが必要」とお伝えするにとどめます。具体的な見通しは無料相談で整理できます(→無料相談へのリンク)。
日本進出で注意したいポイント
「準備のつもり」が営業に踏み込み、課税と形態転換に直面する
駐在員事務所のまま、つい受注や契約に踏み込んでしまうケースがあります。これは規程上できないだけでなく、税務上も「恒久的施設(PE:Permanent Establishment)」とみなされ、日本での課税が生じる恐れがあります。その場合、結局は子会社や支店への形態転換が必要になり、口座・契約・在留資格をやり直す手間とコストが発生します。税務上の具体的な判断は税理士の領域ですが、「準備拠点で営業はできない」という原則は最初に押さえておくべきです。
支店――「親会社と同一の法人格」が意味すること
支店(Branch)は、外国会社が日本に設ける営業所です。駐在員事務所と違い、日本で営業活動を行うことができます。ただし、最も理解しておくべき特徴は別にあります。
それは、支店は親会社(外国会社)と同一の法人格であるという点です。日本の子会社のように「別の会社」をつくるのではなく、外国会社そのものが日本でも活動する形になります。この結果、支店の債務・責任は、そのまま親会社に直接およびます。後述する子会社のような「責任の遮断」がありません。これが子会社との最大の違いであり、支店を検討するうえで最重要のポイントです。
日本で継続して取引を行うには、外国会社の登記が必要です。会社法上、「日本における代表者」を定める必要があり、そのうち1名以上は日本に住所を有する者でなければなりません。登記には親会社の存在を証する書類(宣誓供述書〔アフィダビット〕など)の準備・翻訳が必要で、海外本社側にも相応の作業負担が生じます。
課税については、原則として日本国内の事業から生じる所得が日本での課税対象になります(詳細は税理士の領域です。→「税金」の記事)。また支店での在留資格は構成が複雑になりやすく、個別の検討が必要です(→「経営管理ビザ」の記事)。
日本進出で注意したいポイント
「登録免許税が安いから支店」は早計
支店(営業所を設ける場合)の設置登記にかかる登録免許税は9万円です。一方、子会社(株式会社)の設立は資本金3,000万円なら登録免許税21万円が目安で、確かに支店のほうが低額です。しかし、ここだけを見て「安いから支店」と決めるのは早計です。支店は責任が親会社に直結し、在留資格の構成も複雑になりやすく、信用面でも「日本で登記された独立の法人」である子会社に劣る場面があります。目先の登記費用より、責任・信用・ビザとの相性という構造的な違いで選ぶべきです(登録免許税の額は法務局の公式情報でご確認ください)。
子会社――多くの外国法人がこれを選ぶ理由
子会社(Subsidiary)は、日本に新しく設立する日本法人(株式会社または合同会社)です。多くの外国法人が本格進出にあたってこの形態を選びます。理由は、支店・駐在員事務所にはない次の利点があるためです。
- 責任の遮断 ― 親会社とは別の法人格であり、親会社の責任は原則として出資の範囲に限定されます。日本側の事業リスクが本社に直接およびにくい構造です。
- 信用力 ― 取引先・銀行・賃貸・採用の場面で、「日本で登記された法人」であることが信用面で有利に働きやすくなります。
- 銀行口座 ― 法人口座の開設は子会社(日本法人)であることが前提になりやすいです(ただし審査は厳しい点に注意。→「銀行口座」の記事)。
- 在留資格との親和性 ― 経営・管理ビザ(本人経営)や企業内転勤(社員派遣)と最も相性がよく、来日して経営・就労する設計がしやすくなります(→「経営管理ビザ」の記事)。
課税は日本法人としての所得課税となります(→「税金」の記事)。なお、株式会社(KK)と合同会社(GK)のどちらを選ぶかは別の論点で、費用・社会的信用・経営の柔軟性などで比較して決めます(→「株式会社と合同会社」の記事)。設立費用の実額も含めて本記事では深掘りしません(当法人プランでは株式会社515,000円・合同会社463,000円〔税込〕。→「進出費用」の記事と整合)。
診断――自社はどの形態に向くか
では、自社はどの形態に向いているのでしょうか。判断の軸はシンプルに2つです。①日本で売上を立てる(営業する)か、②誰が来日するか(社員を派遣するのか/経営者本人が来るのか/まだ誰も来ないのか)。この2軸で整理すると、「進出の全体像」の記事で示した3パターン(A:社員派遣/B:本人経営/C:市場調査)と対応します。
| 状況 | 日本で売上を立てるか | 誰が来日するか | 向いている形態 |
|---|---|---|---|
| パターンA:社員を派遣して運営 | 立てる | 本社の社員・役員 | 子会社(+企業内転勤 など) |
| パターンB:本人が来日して経営 | 立てる | 経営者本人 | 子会社(+経営・管理) |
| パターンC:まず市場調査 | 立てない(準備のみ) | まだ誰も/調査担当 | 駐在員事務所 |
| 本社と一体で日本でも取引 | 立てる | 状況による | 支店(責任が本社に直結する点に留意) |
※あくまで方向性の目安です。在留資格の要件充足や事業の実体により最適な形態は変わります。自社のケースに合うかどうかは個別の見極めが必要です。
ここで大切なのは、「御社は支店にすべき」といった個別の断定をしないことです。形態選定は、営業の可否・責任・税務・口座・ビザという複数の要素を、自社の進出目的と照らし合わせて決めるべきものです。本記事は判断の軸を示すものであり、最終的な選択は、進出目的と事業計画をふまえて専門家と整理することをおすすめします。
なお、拠点を日本に置かずに始める方法(現地代理店を通じた販売や、輸出のみで対応するなど)もあります。本記事の主題ではありませんが、「必ず拠点が要る」とは限らない点も、選択肢として頭の片隅に置いておくとよいでしょう。
「あとで変える」は高くつく
「とりあえず駐在員事務所で始めて、軌道に乗ったら子会社にすればいい」――一見すると合理的に思えますが、形態の途中変更には相応のコストがかかります。駐在員事務所から子会社への切り替え自体は可能ですが、その際には、法人口座の開設をやり直し、各種契約を結び直し、在留資格も整え直す必要が生じます。時間も費用もかかり、事業のスピードが落ちます。
とくに、駐在員事務所の段階で営業に踏み込んでしまっていた場合は、税務上の整理(PE〔恒久的施設〕とみなされていないか)も含めて事後の対応が必要になりかねません。だからこそ、最初の見極めが重要です。当初から将来像を見据えて形態を選び、設立・許認可・ビザ・口座を「順番に」ではなく「同時並行で」設計しておくことが、結果的に最短ルートになります(→「同時並行・段取り」の記事)。
形態選定の整理は、無料相談から
形態の選定は、進出支援におけるPHASE 1(初期コンサルティング/330,000円〔税込〕〜)の中核となるテーマです。ただし、その入口はあくまで無料です。行政書士法人タッチでは、初回のご相談を無料で承っています(STEP 0:無料相談)。
無料相談では、現状とご進出の目的をうかがい、子会社・支店・駐在員事務所のどの方向が合いそうか、その先の全体像とあわせてご案内します。ご相談の結果、具体的な支援が必要になった場合は、内容に応じた有料の支援プランをあらためてご提案し、費用の見通しを丁寧にご説明します。まずはお気軽にお問い合わせください。
まずは無料相談から(STEP 0:無料)
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