日本で人を雇い始めると、社会保険への加入、雇用契約・労働条件の明示、就業規則、そして解雇のルールまで、日本独自の労務が一気に関わってきます。とくに外国法人がつまずきやすいのが解雇の感覚の違いで、アメリカの随意雇用(at-will employment)のように理由を問わず解雇できる国とは異なり、日本では正当な理由がなければ簡単には辞めてもらえません。本記事では、最初の従業員を雇う前に押さえておきたい社会保険・雇用契約・就業規則・外国人雇用の手続、そして特に日本の解雇規制の基礎を、外国法人の視点でやさしく整理します(個別の手続の代行は、提携する社会保険労務士が担当します)。
※本記事の内容は2026年7月時点の一般的な情報です。社会保険・労働保険や在留資格に関する制度は改正が進行中の項目を含み、要件・金額・施行時期は変わり得ます。最新の取扱いは、日本年金機構・厚生労働省・出入国在留管理庁などの公式情報や、社会保険労務士・行政書士等の専門家にご確認ください。
この記事でわかること
- 会社を設立したら関わる保険(健康保険・厚生年金は規模に関係なく加入/労災・雇用は人を雇うと加入)と、その短い届出期限
- 雇用契約で明示すべき労働条件(2024年4月に追加された項目)と、外国人には理解できる言語で示すことの重要性
- 常時10人以上で必要になる就業規則と、36協定・時間外労働の上限規制
- 外国人を雇うときの手続(外国人雇用状況の届出・在留カードの確認)と、不法就労助長のリスク
- 【重点】日本の解雇規制――「自由に解雇できる」が通用しない理由と、社労士連携・無料相談への進み方
1. 会社を作ったら関わる「保険」――まず加入と届出から
日本で会社(法人)を設立し、人を雇い始めると、大きく二種類の保険に関わります。一つは健康保険・厚生年金保険(いわゆる社会保険)、もう一つは労災保険・雇用保険(労働保険)です。いずれも「入るかどうかを選べる」ものではなく、要件に当てはまれば加入が義務づけられ、しかも設立・雇用の直後から短い期限で届出が必要です。まず全体像を一覧で示します。
| 保険の種類 | いつ加入・誰が対象 | 主な届出と期限 | ポイント |
|---|---|---|---|
| 健康保険・厚生年金保険 | 法人は代表者一人でも報酬があれば加入(会社の規模に関係なく強制適用) | 新規適用届を事実発生から 5日以内(年金事務所) | 会社と本人で保険料を折半。赤字でも会社負担は発生 |
| 労災保険 | 労働者を1人でも雇えば原則適用 | 保険関係成立届等を原則 10日以内(労働基準監督署) | 保険料は全額会社負担。パート・アルバイトも対象 |
| 雇用保険 | 加入要件を満たす労働者について適用 | 事業所設置の届出は原則10日以内、資格取得届は雇用月の翌月10日まで(ハローワーク) | 週の所定労働時間などの加入要件がある |
健康保険・厚生年金保険――規模に関係なく強制適用
ここで外国法人がとくに知っておきたいのは、健康保険・厚生年金保険は、会社の規模に関係なく加入が必要だという点です。従業員がまだいなくても、代表者に報酬を支払うのであれば、法人は「強制適用事業所」として加入します。保険料は会社と本人が折半して負担し、会社負担分は会社の固定的なコストになります。つまり、利益が出ていない段階でも、社会保険料の会社負担は発生します。
短時間労働者(パート・アルバイト)の社会保険――2026年10月からの変更
常勤の役員や正社員は原則として加入対象ですが、パート・アルバイトなどの短時間労働者の社会保険加入の範囲は、現在、段階的に拡大している最中です。2026年7月時点では、週20時間以上という労働時間の要件は維持される一方、賃金の要件(いわゆる「106万円の壁」=月額8.8万円)は、2025年に成立した年金制度改正法で廃止が決まり、2026年10月の施行が見込まれています(法律上は公布から3年以内の施行とされています)。また、現在は従業員51人以上とされている企業規模の要件も、2027年10月以降に段階的に引き下げられ、2035年10月には企業規模を問わず適用対象となる予定です(段階施行の詳細は政省令で定まる部分を含みます)。この分野は施行が進行中で、時期や要件が変わり得るため、最新の取扱いは日本年金機構・厚生労働省の公式情報や社労士にご確認ください。
なお、雇用保険についても適用拡大が予定されており、加入要件の一つである週の所定労働時間が、2028年10月から「週20時間以上」から「週10時間以上」へ引き下げられる見込みです(2024年に成立した改正雇用保険法)。短時間のパート・アルバイトを多く雇う場合は、社会保険とあわせて今後の対象拡大に留意してください。
日本進出で注意したいポイント①――「赤字でも社会保険料の会社負担は発生する」
「利益が出るまで社会保険は関係ない」と考えるのは誤りです。法人は代表者一人でも、報酬を支払えば健康保険・厚生年金に加入し、会社は保険料の半分を負担します。従業員を雇えば、その人数分の会社負担も増えます。設立初年度は赤字になりやすいからこそ、社会保険料の会社負担という固定的なコストを、最初の資金計画に織り込んでおく必要があります。
2. 雇用契約と労働条件の明示――「言った・聞いていない」を防ぐ
人を雇うときは、賃金や労働時間などの労働条件を、採用時に明示する義務があります(労働条件通知書などの書面・電子メール等による明示が基本です)。日本では口約束だけの採用はトラブルのもとになりやすく、書面で条件をそろえておくことが、後の「言った・聞いていない」を防ぎます。
2024年4月からは、明示すべき事項が追加されました。代表的なものは次のとおりです。
- 就業場所・業務の「変更の範囲」:雇い入れ直後の就業場所・業務に加え、将来配置転換などで変わり得る範囲も明示します。
- 有期契約の「更新上限」の有無と内容:通算契約期間や更新回数の上限を定める場合は、その内容を明示します。
- 無期転換に関する事項:有期契約が通算5年を超えて更新されると無期契約への転換を申し込めるため、その申込機会と、転換後の労働条件を明示します。
さらに、外国人従業員を雇う場合は、本人が理解できる言語(母国語や英語など)で労働条件を明示・説明することが望まれます。日本語の書面を渡しただけでは、賃金・労働時間・休日などの認識が食い違い、後のトラブルにつながりかねません。雇用契約書や労働条件通知書を多言語で用意し、内容を本人に確認してもらうことが、外国人を雇うときの実務上のポイントです。
日本進出で注意したいポイント②――労働条件は「本人が理解できる言語」で
労働条件を日本語の書面で渡しただけで「説明した」とするのは危険です。賃金の計算方法、残業の扱い、休日などの認識がずれると、入社後に深刻なトラブルになりがちです。母国語や英語を併記した雇用契約書・労働条件通知書を用意し、本人が理解したうえで署名する流れにしておくと安全です。
3. 就業規則と労働時間――10人を超えたら、残業させるなら
就業規則――常時10人以上で作成・届出義務
従業員が増えてきたら、就業規則と労働時間のルールも押さえる必要があります。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則を作成し、労働基準監督署へ届け出る義務があります(パート・アルバイトも含めて数えます)。10人未満であっても、就業規則を整えておくと、労働条件やルールが明確になり、トラブルの防止に役立ちます。
労働時間の上限と36協定――残業させるなら締結・届出が前提
労働時間には、法定労働時間(原則として1日8時間・週40時間)という上限があります。これを超えて時間外労働(残業)や休日労働をさせるには、あらかじめ労使で「36(サブロク)協定」と呼ばれる労使協定を結び、労働基準監督署へ届け出ておく必要があります。36協定を結ばずに法定労働時間を超えて働かせることは、原則として認められません。
さらに、時間外労働には罰則付きの上限規制があります。原則は月45時間・年360時間までで、臨時的な特別の事情がある場合に結ぶ「特別条項」でも、年720時間などの上限を超えることはできません(特別条項を適用する場合でも、単月100時間未満・複数月平均80時間以内、月45時間を超えられるのは年6回まで、という上限があります)。「日本は残業が当たり前」という印象のまま上限を意識せずに運用すると、法令違反になり得ます。
日本進出で注意したいポイント③――「36協定なしの残業」「上限を超える残業」は違法
法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて働かせるには、36協定の締結・届出が前提です。これを怠ったまま残業させると、労働基準法違反となります。さらに時間外労働には罰則付きの上限(原則月45時間・年360時間、特別条項でも年720時間等)があり、上限を超える働かせ方はできません。労働時間を管理する体制を、採用前から整えておくことが大切です。
4. 外国人を雇うときの手続――在留資格の確認を怠らない
外国人を従業員として雇う場合(また離職する場合)には、その都度、ハローワークへ「外国人雇用状況の届出」を行う義務があります。これは、日本人を雇うときにはない、外国人雇用に特有の手続です(特別永住者は対象外です)。届出を怠ったり、虚偽の届出をしたりすると、30万円以下の罰金の対象となります。
採用にあたっては、まず在留カードなどで、その人の在留資格・在留期限と、就労が認められているか(就労の可否)を必ず確認してください。在留資格によっては就労できないもの(例:「留学」「家族滞在」は原則として就労不可で、資格外活動の許可の範囲でのみアルバイト等が可能)や、認められた範囲を超える就労ができないものがあります。
確認を怠り、就労資格のない外国人や、認められた範囲外の業務に従事させると、雇った事業主が「不法就労助長罪」に問われ得ます(入管法)。罰則は、現行では3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金ですが、2024年に成立した改正入管法〔育成就労制度の創設等〕により、5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金へと強化されます(両方が併科されることもあります)。施行日は2027年4月1日〔令和7年政令第340号〕で、2026年7月時点ではまだ施行前です。「就労できると思っていた」「知らなかった」というだけでは免責されません。在留カードの確認などを怠った過失があれば処罰の対象となり得るため、採用時の確認は欠かせません。
日本進出で注意したいポイント④――在留資格の確認漏れ=不法就労助長のリスク
「本人が大丈夫と言ったから」「悪気はなかった」は通用しません。就労できない在留資格の人や、認められた範囲外の業務に就かせると、事業主が不法就労助長罪に問われ得ます(罰則は現行で3年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金。2027年4月1日施行の改正法で5年以下の拘禁刑・500万円以下の罰金に強化されます)。採用前に在留カードで在留資格・在留期限・就労の可否を確認し、記録を残すことが、外国人を雇う会社の基本動作です。
5. 【重点】解雇規制――日本では「簡単には解雇できない」
外国法人がもっとも誤解しやすいのが、解雇に関するルールです。「日本では自由に解雇できる」というのは誤りです。アメリカの随意雇用(at-will employment)のように、原則として理由なくいつでも解雇できる国もありますが、日本では、解雇は法律と判例によって強く制限されています。主なルールを整理します。
| 項目 | 内容 | 根拠・ポイント |
|---|---|---|
| 解雇権濫用法理 | 客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は、無効となる | 労働契約法16条 |
| 解雇予告 | 少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う必要がある | 労働基準法。試用期間中でも入社後14日を超えれば予告が必要 |
| 整理解雇(経営上の理由) | ①人員削減の必要性 ②解雇回避の努力 ③人選の合理性 ④手続の妥当性、の4要素で慎重に判断される | 判例上の枠組み(整理解雇の4要素) |
| 有期契約の雇止め | 反復更新された有期契約などでは、雇止め(更新拒否)にも一定の制限がある | 労働契約法19条(雇止め法理) |
解雇権濫用法理――合理的な理由と相当性(労働契約法16条)
出発点となるのが、労働契約法16条です。解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、「解雇権を濫用したもの」として無効になります(解雇権濫用法理)。つまり、解雇するには、誰が見ても納得できる合理的な理由と、その重さに見合った相当性が必要で、会社の都合や経営者の感覚だけで一方的に辞めさせることはできません。
解雇予告と解雇予告手当――30日ルール
また、解雇する場合でも、原則として少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う必要があります(労働基準法)。試用期間中であっても、入社後14日を超えて雇用していれば、この予告のルールが適用されます。「試用期間中なら自由に辞めさせられる」わけではない点に注意が必要です(天災事変などでやむを得ない場合や、労働者の責めに帰すべき重大な事由がある場合に、労働基準監督署長の認定を受けたときは、予告が不要となる例外もあります)。
整理解雇の4要素――経営上の理由でも慎重に判断される
とくに、業績不振など経営上の理由で人員を減らす「整理解雇」は、判例上、①人員削減の必要性 ②解雇を回避する努力(配置転換・希望退職の募集など)③人選の合理性 ④手続の妥当性(説明・協議)という4つの要素に照らして、慎重に判断されます。これらを欠いた整理解雇は、無効と判断されるおそれがあります。
雇止め・退職勧奨の注意点
なお、有期契約の「雇止め(契約を更新しないこと)」にも、反復して更新されてきた場合などには一定の制限があります。また、本人に退職を促す「退職勧奨」は解雇とは別のものですが、執拗に迫るなど強要にあたる進め方をすると、問題になり得ます。いずれも進め方を誤ると後から無効・違法と判断されるリスクがあるため、具体的な対応は社労士・専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
日本進出で注意したいポイント⑤――「解雇は自由」ではない(at-willとの違い)
母国の随意雇用(at-will)の感覚で「いつでも・理由を問わず解雇できる」と考えると、日本では大きなトラブルになります。合理的な理由と相当性を欠く解雇は無効とされ(労働契約法16条)、無効と判断されれば、復職や、解雇期間中の賃金の支払いを求められることもあります。採用の段階から、就業規則・評価・記録の整備を含めて、社労士と一緒に労務の土台を作っておくことが、結果的に会社を守ります。
6. 労務は提携社労士が担当――窓口一本化で、設立・在留資格と分断させない
ここまで見てきたとおり、日本の労務は、保険の加入から労働条件の明示、就業規則、外国人雇用の手続、そして解雇まで論点が広く、しかも会社設立・在留資格(ビザ)・税務と密接につながっています。たとえば「誰を常勤の職員として雇うか」は、経営・管理の在留資格(経営管理ビザ)で求められる「常勤職員1名以上」の要件にも関わります(この常勤職員の対象は、原則として日本人・永住者などの身分系の在留資格をもつ方で、技術・人文知識・国際業務といった就労ビザで働く外国人は含まれません。詳しくは「経営管理ビザ」の記事をご覧ください)。労務だけを切り離して考えると、こうした横のつながりを見落としがちです。
行政書士法人タッチは、国際業務を専門とする行政書士法人として、日本進出に必要な実務を全体から整理し、提携する社会保険労務士・税理士・司法書士等と連携しながら、ひとつの窓口でサポートします。労務・社会保険の手続そのものは提携する社会保険労務士が担当し、税務は税理士、登記は司法書士、在留資格・許認可は行政書士が担います。タッチはその全体を横串で見て、会社設立・在留資格と労務・税務が分断しないよう、順番と役割を整理して進行を管理します。海外本社との多言語でのやり取りにも対応します。
まずは無料相談から(STEP 0:無料相談)
「日本で人を雇うと、何の保険に・いつ加入するのか」「最初の採用で何を準備すべきか」「解雇のルールはどうなっているのか」を整理するところから始めませんか。行政書士法人タッチでは、初回のご相談を無料で承っています(STEP 0:無料相談)。現状とご進出の計画をうかがい、労務を含む必要な手続きの全体像と、提携する社会保険労務士・専門家との連携の進め方をご案内します。
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